国際物流とは、国境を越えてモノを動かす一連の活動の総称である。製造から梱包、輸出通関、海上・航空輸送、輸入通関、国内配送に至るまで、複数の事業者・複数の国の規制・複数の通貨が関与し、国内物流とは異なる複雑さを抱える。財務省貿易統計によれば、2024年の日本の輸出額は107兆円台と1979年以降で過去最高を更新しており、貿易赤字は4年連続となった。これだけの規模のモノの流れを、誰がどの工程で意思決定し、全体としてマネジメントするのか——本稿はJETROの貿易実務、国土交通省所管の貨物利用運送事業制度、国際商業会議所(ICC)のインコタームズ2020などの一次情報に基づき、輸出入の全体フロー(7ステップ)を整理したうえで、各工程の責任の所在と、それを統括するグローバルSCM/CLO(物流統括管理者)人材に求められるものを論じる。
国際物流とは何か——国内物流との違い
国際物流とは、輸出入や海外拠点間のサプライチェーンに伴うモノの移動と、それを支える通関・書類・保険・決済の手続き全体を指す。国内物流が「国内の保管・輸送・配送」を中心に組み立てられるのに対し、国際物流には国内物流には存在しない論点が複数重なる。
まず通関という関門がある。国境を越える貨物は、輸出国で輸出申告・許可、輸入国で輸入申告・関税納付・許可を経る――国内物流にこの行政手続きは存在しない。輸送も海上(コンテナ)・航空・鉄道・トラックを組み合わせる複合一貫輸送が前提で、リードタイムとコストのトレードオフは国内より大きい。さらに、売主と買主のどちらがどの地点まで費用と滅失リスクを負うかをインコタームズという国際規則で取り決める必要があり、複数通貨での決済・関税・租税条約・移転価格といった、国内取引にはない金銭・税務リスクも生じる。そして船荷証券(B/L)・インボイス・パッキングリストといった貿易書類が代金決済と貨物の引き取り権を左右し、書類の不備がそのまま物理的な引き取り遅延に直結する。
JETROは、貿易実務を「商品(モノ)」「代金(カネ)」「書類と情報(届出)」の3つの流れが同時並行で動くものと整理している。国内物流が主に『モノの流れ』の最適化に焦点を当てるのに対し、国際物流ではこの3つの流れを同時に設計・管理しなければならない点が、構造的な違いの核心である。海外CLO制度との比較や日本独自の制度設計については、海外CLO制度との比較もあわせて参照されたい。
輸出入の全体フロー——7ステップで把握する
輸出入の流れは事業者・契約条件によって細部が変わるが、骨格はおおむね共通している。JETROが図解する貿易実務の流れを土台に、製造から国内配送までを7ステップに整理する。
- ①売買契約とインコタームズの確定──輸出者と輸入者が、品質・数量・価格・納期・支払条件を取り決める。同時に、どちらがどこまで費用と危険を負うかをインコタームズで確定する。ここでの条件設定が、以降すべての工程のコストとリスク配分を規定する。
- ②製造・梱包・出荷準備──輸出貨物を製造し、国際輸送に耐える梱包(バンニング、パレタイズ、防湿・防錆処理など)を施す。パッキングリストとインボイスを作成する。
- ③輸出通関──通関業者(または自社)が保税地域に貨物を搬入し、税関へ輸出申告を行う。審査・必要に応じた検査を経て輸出許可が下りる。許可がなければ船積みできない。
- ④国際輸送(海上/航空)──船会社・航空会社(実運送人)が、仕出地の港・空港から仕向地まで実際の輸送を担う。船積み後、船荷証券(B/L)または航空運送状(AWB)が発行される。
- ⑤輸入通関──仕向国で輸入申告を行い、関税・消費税等を納付して輸入許可を得る。原産地規則を満たせばEPA/FTAによる関税減免が適用できる。
- ⑥国内配送(仕向国内)──輸入許可後、保税地域から引き取った貨物を、現地の倉庫・配送網を通じて最終需要地へ届ける。ここから先は実質的に『国内物流』の領域に接続する。
- ⑦代金決済と書類処理──信用状(L/C)や荷為替手形などにより、銀行を介して代金が決済される。モノの流れと並行して、カネと書類の流れが完結する。
重要なのは、これらが直列に並ぶだけでなく、書類・情報の流れと代金の流れが各ステップに絡みつく点である。たとえば③輸出通関で許可が遅れれば④の船積みが遅れ、結果として⑦の代金回収も後ろ倒しになる。一つの工程の遅延が連鎖する構造こそ、国際物流のマネジメント難度を高めている。
インコタームズ2020——費用と危険負担の線引き
国際取引で「どちらがどこまで負担するか」を取り決める世界共通のルールが、国際商業会議所(ICC)の定めるインコタームズである。最新版は2020年版で、ICCにより2020年1月1日に発効した。インコタームズ2010から10年ぶりの改訂である。
インコタームズが定めるのは、突き詰めれば二つの分岐点である。すなわち、(a) 費用をどこまで売主が負担するかという『費用負担の分岐点』と、(b) 貨物の滅失・損傷リスクが売主から買主へ移転する『危険負担の分岐点』である。この二つは必ずしも一致しない点が実務上の落とし穴になる。
インコタームズ2020の主な変更点
- DATの廃止とDPUの新設──2010年版にあったDAT(ターミナル持込渡し)が廃止され、DPU(荷卸込持込渡し)が新設された。仕向地がターミナルに限定されず『あらゆる指定仕向地』であり得る実態を反映したものとされる。
- CIFとCIPで保険補償範囲を区別──CIFとCIPで売主が付保すべき最低限の保険補償範囲が異なる水準に整理された。
- 引渡し・危険移転義務の位置づけ──引渡しおよび危険の移転に関する義務項目が、各規則の条文内で上位に置かれ、参照しやすく整理された。
FOB(本船渡し)やCIF(運賃保険料込み)といった海上輸送向けの古典的条件は今も広く使われるが、コンテナ輸送が主流となった現在、ICCはコンテナ貨物にはFCAやCPT/CIPの利用を推奨している。どの条件を選ぶかは、運賃・保険の手配責任とリスク負担をどう設計するかという経営判断であり、価格交渉と一体で決まる。インコタームズの選択を現場任せにせず、調達・営業・物流が連携して方針を持つことが、コスト構造の最適化につながる。物流コストを構造として捉える視点は物流コストの構造分解で詳述している。
フォワーダー・通関業者・3PLの役割分担
国際物流は、荷主が単独で完結できるものではない。複数の専門事業者が役割を分担する。JETROおよび貨物利用運送事業法に基づき、主要プレイヤーの役割を整理する。
- 実運送人(キャリア)──船会社・航空会社など、自ら輸送手段を所有し、港から港・空港から空港までの実際の輸送を担う事業者。
- フォワーダー(利用運送事業者)──自らは輸送手段を持たず、実運送人を利用して貨物運送を取り次ぐ事業者。荷主に対して運送契約を結び、運送の責任を負う。船腹を持たない海上フォワーダーはNVOCC(非船舶運航業者)と呼ばれる。
- 通関業者(海貨業者)──輸出入の通関手続きを専門に引き受ける事業者。税関への申告・許可取得を代行する。フォワーダーが通関機能を併せ持つ場合も多い。
- 3PL(サードパーティ・ロジスティクス)──荷主の物流業務を包括的に受託する事業者。保管・輸送・流通加工・情報システムまで一括で設計・運営する。国際・国内を横断した一貫サービスを志向する。
日本でフォワーダーが提供するサービスは、貨物利用運送事業法の枠組みで規律される。同法は国土交通省の所管であり、事業は二種類に区分される。
第一種貨物利用運送事業は、実運送人を利用した運送――港から港、空港から空港のいわゆるポート・ツー・ポート――を行う事業を指す。第二種貨物利用運送事業は、これに加えてトラックによる集荷・配達を一貫して行い、荷主にドア・ツー・ドアの一貫サービスを提供する事業で、海上の複合一貫輸送を行うNVOCCは通常この第二種の登録(許可)が必要になる。
荷主企業の立場から見れば、これらの事業者をどう選び、どう組み合わせ、どこまで自社で内製するかが、国際物流のコストとリードタイムを左右する設計判断となる。フォワーダー任せにするのか、自社にグローバル物流機能を持つのかは、企業の国際化の段階と物流戦略の成熟度に応じて変わる。
通関と必要書類の基礎
国際物流の工程のなかで、最も行政との接点が濃く、不備が物理的な遅延に直結するのが通関である。輸出通関では税関に輸出申告を行い、審査・検査を経て輸出許可を得てはじめて貨物を船積みできる。輸入通関では輸入申告のうえ関税・消費税等を納付し、輸入許可を得てはじめて保税地域から貨物を引き取れる。
通関と貨物の引き渡しを支えるのが、各種の貿易書類である。これらは『書類・情報の流れ』を構成し、モノの流れと並走する。
- 船荷証券(B/L)/航空運送状(AWB)──運送契約の証拠であり、海上輸送のB/Lは貨物の引き取り権を表す有価証券としての性格を持つ。書類が揃わなければ貨物を引き取れない。
- インボイス(送り状)──取引明細・金額を示す書類。通関での課税価格算定の基礎となる。
- パッキングリスト(包装明細書)──梱包ごとの内容・数量・重量・容積を示す。検査・荷役の基礎情報となる。
- 原産地証明書──EPA/FTAに基づく関税減免を受ける際に、貨物の原産地を証明する書類。
これらの書類の整合性が崩れると、通関が止まり、貨物が保税地域に滞留し、保管料が発生し、最終的には代金決済まで遅れる。たとえばインボイスの単価とパッキングリストの数量が一点食い違うだけでも、税関の事後確認の対象になり得る。担当者の入力ミス一件が、数日の貨物滞留と追加の保管料に化ける領域である。
各工程の意思決定は誰が担うか——グローバルSCMの組織責任
ここまで見てきた7ステップは、現実の企業では複数の部門にまたがって遂行される。問題は、それらの工程横断の意思決定を『誰が』担うかである。輸出入の手順そのものを説明する解説は無数にあるが、その手順を決める権限が社内のどこにあるのかは、ほとんど語られない。
典型的な日本企業では、国際物流の工程ごとに責任部門が分散している。
インコタームズや契約条件は、営業・調達部門が価格交渉とセットで決めることが多く、物流コストの観点が十分に反映されないことがある。輸送モードやフォワーダーの選定は物流・購買部門が担うが、拠点ごとにバラバラに発注されて全社最適が効きにくい。通関・書類管理は貿易事務・物流オペレーション部門の領域で、属人化しやすい。関税・税務には経理・財務・税務部門が関与するが、物流側との連携が薄いと関税最適化の機会を逃す。そして在庫・拠点配置はSCM・生産管理部門が担い、国際リードタイムの長さが在庫水準を押し上げる。
たとえば、海外に複数の生産・販売拠点を持つメーカーで、各拠点が手近なフォワーダーへ個別に発注し続けた結果、同じ東南アジア発の航路に三者三様の運賃が併存していた、という構図は珍しくない。本社の物流部門が発注を束ね、航路ごとに窓口を一本化すれば、相見積もりが働いて運賃は二桁%下がる余地が出る。だが現実には、その『束ねる権限』を持つ部署が社内になく、各拠点の部分最適がそのまま放置される。
この分散構造のままでは、各部門が部分最適を追い、工程間のトレードオフ(たとえば運賃を下げると在庫が膨らむ、リードタイムを縮めるとコストが上がる)を全社で裁く者が不在になる。グローバルSCMの組織設計とは、突き詰めればこの工程横断の意思決定権を誰に集約するかという問題である。国際在庫の最適化という難所については在庫最適化の実務ガイドも参照されたい。
国交省提言の『⑦グローバル』とCLOの管掌
2026年4月に施行された改正物流効率化法は、一定規模以上の特定荷主に対し、役員等の経営幹部からCLO(物流統括管理者)を選任することを義務付けた。CLOは法令上の職責にとどまらず、社会的課題への対応を含めて物流に関係する企業活動全体を改革する存在として位置づけられている。
国土交通省の提言は、CLOに求められる知識・知見を複数の領域に整理しており、そのうちの一つに『グローバル』が含まれる。本サイトの既存記事でも繰り返し参照してきたとおり、CLOに期待される知見領域は、①経営戦略としての物流、②パートナーシップ、③サステナビリティ、④組織・人材、⑤デジタル技術、⑥法務・法制度、⑦グローバル、として整理される。国際物流を担う企業のCLOにとって、この『⑦グローバル』は飾りの領域ではない。
『⑦グローバル』が難所なのは、求められる知識の数が多いからではなく、それらが噛み合わないと全体が崩れるからである。調達・生産・販売をどの国に置くかは、税・関税・リードタイム・地政学リスクが絡む連立方程式であり、物流網の設計はその解の一部でしかない。海外拠点の品質を保ちながらコストを抑えること、インコタームズや原産地規則・外為法を実務で使いこなすこと、商習慣の異なる相手と物流契約を維持すること——これらは独立した専門技能ではなく、同じ一つの意思決定の異なる断面である。工程ごとに最適化を積み上げると、在庫か関税か納期のどこかが必ず膨らむ。
CLOがこの管掌を担うべき理由は明快である。国際物流の各工程は前述のとおり部門に分散しているが、その分散を全社の物流戦略として統合し、工程横断のトレードオフを裁けるのは、経営幹部の権限を持つCLO以外にないからである。物流子会社の社長兼任型、物流本部新設型、グローバル統括組織配置型など、CLOをどの組織形態で据えるかは企業によって異なる。組織モデルの選択肢はCLOの組織モデル5類型で詳しく論じている。
クロスボーダー再編と国際物流の統合
国際物流の難度が最も高まるのは、M&Aによってサプライチェーンそのものを再編する局面である。海外企業の買収や事業統合では、両社が異なる船社契約・フォワーダー・通関体制・WMS/TMSを抱えており、それらを統合しなければシナジーは実現しない。
クロスボーダーM&Aのサプライチェーン統合(PMI)では、国際物流網の統合、関税・通関の最適化(AEO資格の移管を含む)、在庫拠点の再配置、貿易書類管理システムの統合といった論点が一気に押し寄せる。これらはまさに国際物流を統括する人材の管掌領域であり、CLOがM&A戦略段階から関与しているかどうかが、統合の成否を分ける。クロスボーダー物流M&Aの論点はクロスボーダー物流M&Aの論点で詳述している。
こうした戦略的なサプライチェーン再編を支援するため、CLO Careerの運営会社である株式会社KI Strategyは、AIと専門家を組み合わせた戦略デューデリジェンス『DD-AX』を提供している。AIが論点の網羅的な構造化・抽出を担い、専門家が深掘りと判断を加える二層構造で、クロスボーダー案件特有のコストとスピードの課題を緩和する設計である。
国際物流を統括する人材に求められるもの
ここまでの議論を、人材要件として束ね直す。国際物流を統括するグローバルSCM/CLO人材に求められるのは、特定の工程の専門知識ではなく、工程を横断して全体を設計・統制する組織能力である。
求められるのは五つの力だ。製造から国内配送までの7ステップを一枚の絵として捉え、ボトルネックとトレードオフを構造的に把握する全体フローの設計力。インコタームズ・通関・貨物利用運送の枠組み・EPA/FTAといった国境を越える取引の規制を実務レベルで使いこなす規制・契約の実務知。営業・調達・物流・経理・SCMに分散した責任を統合し、部分最適の衝突を全社最適へ裁く横断調整と意思決定。海外拠点・パートナーと異なる言語・商習慣・法制度のもとで信頼を築き、品質とコストを統制する異文化マネジメント。そして国際物流のリスクとコストを経営会議で通用する言葉に翻訳し、投資判断を引き出す経営言語への翻訳――この五つである。
こうした要件をすべて備えた人材は、国内の物流キャリアだけでは育ちにくい。海外駐在経験、貿易実務、SCM戦略、そして経営幹部としての視座——この四つを同時に満たす候補者の母集団は厚くない。物流・SCMリーダーの探索を手がける弊社の実感としても、この層は薄い。それゆえ、グローバルSCM/CLO人材の採用は、公募よりもエグゼクティブサーチを通じた個別アプローチが現実的な選択肢になる。CLOの役割と報酬水準の全体像はCLOの役割と報酬で整理している。
CLO Careerを運営する株式会社KI Strategyは、物流・SCMリーダー人材のエグゼクティブサーチを手がけている。国際物流を統括できる人材の採用を検討している企業の経営層・人事の方は採用相談を、また自らのキャリアを国際物流・グローバルSCMの領域で次の段階に進めたいと考える物流・SCMのハイキャリア人材の方は候補者登録を、それぞれ検討いただきたい。本稿が、国際物流を『工程の連なり』としてだけでなく『統括すべき組織能力』として捉え直す一助になれば幸いである。
References
- JETRO(日本貿易振興機構)『貿易実務の流れ』 https://www.jetro.go.jp/theme/export/basic/trading/procedure.html
- JETRO『インコタームズ2020』(国際商業会議所 ICC 制定) https://www.jetro.go.jp/world/qa/J-200309.html
- JETRO『物流業者の種類と概要:日本』 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010132.html
- 国土交通省『貨物利用運送事業に関する諸手続』 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn3_000002.html
- 貨物利用運送事業法(e-Gov 法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000082
- 財務省貿易統計『2024年分 貿易統計』(輸出107兆円台で過去最高・貿易赤字4年連続) https://www.customs.go.jp/toukei/info/
- 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』提言 https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000995.html
- 株式会社 KI Strategy『DD-AX』 https://dd-ax.com/
- 関連姉妹記事「海外CLO制度との比較」(/topics/clo-global)
- 関連姉妹記事「クロスボーダー物流M&Aの論点」(/topics/cross-border-logistics-ma)
- 関連姉妹記事「CLOの役割と報酬」(/topics/clo-roles-compensation)
- 関連姉妹記事「CLOの組織モデル5類型」(/topics/clo-org-models)



