食品・飲料は、あらゆる産業のなかでも物流の比重が最も重い分野のひとつである。鮮度、温度、賞味期限、多頻度小口——食品固有の制約は、改正物流効率化法(2026年4月全面施行)が荷主に迫る「機能するCLO」の設計を、他業界より一段複雑にする。経済産業省『CLO取組事例集』に名を連ねる先行各社のうち、相当数が食品関連企業であることは偶然ではない。本稿は、食品物流の構造的制約、2024年問題が食品を直撃した理由、1/3ルールという商慣習、先行各社の取り組み、そして食品CLOに求められる職能を、公的資料と各社の公表事例にもとづいて整理する。

食品物流の固有構造——三温度帯とトラック依存

食品物流を他業界と分けるのは、第一に温度帯の多さである。常温・チルド(冷蔵)・冷凍の三温度帯が一つのサプライチェーンに混在し、しばしば一台の車両・一つの倉庫で同時に扱われる。単一温度帯であれば積載とルートを最適化しやすいが、複数温度帯では仕切りや専用の庫腹が要り、積載効率の天井そのものが下がる。

第二に、輸送手段がトラックへ著しく偏っている。農林水産省の資料によれば、食品物流のトラック依存率はおよそ97%に達する。鮮度とリードタイムの要求が鉄道・内航海運への転換を阻み、モーダルシフトの難度を押し上げている。

第三に、保管インフラの逼迫がある。冷凍冷蔵倉庫は主要都市圏で需給が締まり、民間調査(CBRE、2024年)では横浜エリアの庫腹占有率が104.1%と、実質的に容量を超えた局面も報じられた。コールドチェーンの維持は大量の電力を要し、脱炭素経営とも正面から衝突する。食品CLOは、この物理的な制約を出発点に据えなければならない。

なぜ2024年問題は食品を直撃したのか

トラックドライバーの時間外労働が年960時間に制限された2024年問題は、多頻度・低温・長距離という食品物流の三条件と、最も相性が悪い。多頻度小口配送は鮮度維持と欠品回避という商流の要求から生まれた慣行だが、ドライバーの回転数を構造的に押し下げる。荷待ち・荷役の長さも食品で顕著で、卸売市場などでは手積み・手卸しにより数時間に及ぶ例がある。

結果は価格に表れた。販売価格への転嫁が進み、2025年3月には食品の値上げ品目のうち物流費を要因とするものが、初めて8割を超えた。物流コストはもはや、原材料高と並ぶ経営の前景の問題である。

80.9%
2025年3月時点で、食品の値上げ品目に占める「物流費由来」の割合。2024年問題を機に、物流コストが食品経営の最前線へと押し出された。
帝国データバンク(2025年3月)

全業種でみても、売上高物流コスト比率は2024年度に5.44%と調査開始以来の最高を記録している(日本ロジスティクスシステム協会)。食品はこの平均を上回る負荷を抱える典型業種であり、コスト構造の可視化はCLOの最初の仕事になる。

1/3ルールと賞味期限——商慣習が生むコスト

食品物流のコストを語るうえで避けられないのが「1/3ルール」である。賞味期間を3分の1ずつに区切り、製造から最初の3分の1以内に小売へ納品しなければならないとする商慣習で、法規制ではない。期限を十分残した商品が返品・廃棄される一因であり、日付の逆転による納品拒否は、検品や付帯作業という形で物流現場に見えにくいコストを積み上げる。

農林水産省は商慣習の見直しを長く促してきた。令和7年10月時点で、賞味期限の延長に取り組む事業者は393社、年月表示への大括り化に取り組む事業者は365社まで広がっている(出典:農林水産省「商慣習の見直しに取り組む食品事業者の公表」令和7年10月)。2023年12月には食品物流未来推進会議(SBM会議)が、賞味期間180日以上の加工食品について納品期限を「原則1/2残し」へ緩める自主行動計画を打ち出した。

この論点が重要なのは、商慣習であるがゆえにCLOが交渉の主体になれる点にある。危険物規制や医薬品のGDPのように法が壁となっている領域と違い、食品の時間軸コストは、製・配・販の合意で動かせる余地が大きい。なお令和5年度の食品ロスは464万トン(事業系231万・家庭系233万、環境省推計)で、納品期限の緩和は食品ロス削減と返品輸送の削減を同時に進める打ち手でもある。

先行事例——『CLO取組事例集』の食品企業

経済産業省が2026年2月に公表した『CLO取組事例集』には、食品関連の企業が数多く収録された。日経ビジネスの「CLOオブザイヤー2025」でも、金賞は日清食品、銀賞は日本アクセスと食品勢が上位を占めている。各社に共通するのは、肩書きの新設ではなく、組織横断の実質的な改革を積み上げている点である。

  • 日清食品(深井雅裕 専務取締役)──「物流にもマーケティングの発想を」を掲げ、JA全農との共同輸送で実車率の向上・ドライバー拘束時間の短縮・CO2排出の約17%削減を実現。受注業務を全国8拠点から東西2拠点へ集約した(出典:経済産業省『CLO取組事例集』2026年2月)。
  • 三菱食品(田村幸士 取締役常務執行役員)──2025年4月にCLOを設置。特売の発注予定データを日清食品と事前に連携し、日清側の在庫調整業務を月200時間規模で削減。AIモデルではトラック台数を約30%削減できると試算する(出典:経済産業省『CLO取組事例集』、三菱食品・日清食品 協業発表)。
  • J-オイルミルズ(執行役員SCM統括)──トラック予約システムの導入で、ミール出荷の荷待ち1時間以上の比率を4割から1割へ短縮。サプライヤー約300件の改善要望を2年で概ね解消した(出典:J-オイルミルズ公式、経済産業省『CLO取組事例集』)。
  • 梅の花グループ──製造・物流・購買を管掌する取締役を置き、店舗配送を週7日から週4日へ削減(出典:経済産業省『CLO取組事例集』、梅の花グループ発表)。チャーター便から混載・共同配送への切り替えを進める。

個社の詳細は姉妹記事「CLO取組事例 完全解読」(/topics/clocases)に譲るが、ここで読み取るべきは、食品CLOの成果が「データ連携」と「業界横断の交渉」という二つのレバーから生まれている点である。

共同配送——競争は商品で、物流は共同で

食品メーカーが共同物流に踏み込みやすいのは、扱う貨物の重量・容積・温度帯・賞味期限が比較的そろっており、混載の相性が良いからである。その象徴がF-LINEだ。味の素・カゴメ・日清オイリオグループ・日清フーズ(現・日清製粉ウェルナ)・ハウス食品グループ本社の出資で2019年に発足し(Mizkanも共同の取り組みに参画。出典:F-LINE株式会社)、「競争は商品で、物流は共同で」を掲げる。

2023年10月には北海道の共同配送拠点を2か所から1か所へ集約し、配送回数の削減でCO2を約16%減らす見込みを示した(出典:食品メーカー6社・F-LINE 共同プレスリリース、2023年7月)。味の素単体でも、長距離輸送(500km以上)のモーダルシフト率を2021年度に9割(90%)まで高めている(出典:味の素グループ)。競合に近い企業同士でも、戻り便の活用などで輸送の共同化は成立しうる。

ただし共同配送は万能ではない。需要予測や発注量といったSCM情報の共有は、競合への情報流出と表裏一体である。何を、どこまで、どの仕組みで共有するかというガバナンス設計を欠いたまま参加すれば、効率化の代償に競争優位を損ないかねない。共同物流の類型と契約・KPI設計は「共同物流の実装」(/topics/joint-logistics)で扱う。

標準化という業界インフラ——アクションプランとSBM

個社努力の限界を超えるために、業界横断の標準化が進む。国土交通省・農林水産省・経済産業省は2020年3月に「加工食品分野における物流標準化アクションプラン」を策定し、納品伝票の電子化、外装表示の位置統一、パレットと外装サイズ(T11型・1100×1100mm)、コード体系の4領域を標準化の対象に定めた。2021年4月には外装サイズガイドラインが公表されている。

標準化は地味だが効果は大きい。パレット化と一貫パレチゼーションは、手積み・手卸しに伴う長時間の荷役を構造的に短縮する。逆に言えば、標準パレットや外装寸法がそろわない限り、荷待ち・荷役時間の削減目標は現場の根性論に帰着してしまう。

業界固有の事情への目配りも要る。J-オイルミルズは、タンクローリーによる油脂のばら配送について、業界団体を通じて荷役時間規制の運用上の整理を求めた。標準化を一律に当てはめるのではなく、自社の物流形態に即して制度の側へ働きかける——これも食品CLOの仕事の一部である。施策の全体像は「荷主の物流効率化メニュー」(/topics/logistics-efficiency-menu)で横断的に整理する。

食品CLOに求められる職能

ここまでを踏まえると、食品CLOは「物流部門の長」ではなく「サプライチェーン全体の統治者」として設計されるべきだとわかる。賞味期限管理・需要予測・在庫・輸配送が分かちがたく結びついており、製造・営業・物流の縦割りを残したままでは機能しないからだ。改正物流効率化法もCLOを「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」と定め、先行各社はいずれも常務・専務・執行役員級で選任している。

コールドチェーンの知識は前提条件にすぎない。より本質的なのは、欠品回避・鮮度優先・多頻度発注という商流の論理と、積載率・運行効率・荷待ち削減という物流の論理のあいだのトレードオフを、経営の言葉で裁断する力である。

そして近年、差を生んでいるのがデータ連携の巧拙だ。三菱食品と日清食品の協業は、CLO同士が発注・在庫データをやり取りする「データ外交」が、従来の商談とは別次元の生産性をもたらすことを示した。需要予測AIや受発注データの連携を成果に変える局面では、PoCで止めずに定着まで伴走できる外部知見——たとえばAI導入の実行・定着支援を専門とする『AX Boost』(https://axboost.jp/)——を組み合わせるのも一案である。もちろん内製を含む複数の選択肢のひとつだ。

選任の先へ——食品経営に問われる判断

改正法の施行で、多くの食品企業がCLOを置いた。だが選任は出発点にすぎない。食品CLOが向き合う判断は、いずれも物流の枠を超える。物流コストを価格に転嫁するのか吸収するのか。共同配送に加わる際、競争情報をどう守るのか。コールドチェーンの環境負荷と脱炭素目標をどう両立させるのか。1/3ルールの緩和を、物流問題ではなく損益改善として経営陣に提示できるのか。

これらに通底するのは、食品物流が一社で完結しないという事実である。多品種・多頻度・小ロットという産業構造ゆえに、単独の最適化には限界があり、CLO同士の「業界外交」こそが最大のレバレッジになる。受け身の法対応にとどまるCLOと、業界変革の触媒として動くCLOの差は、ここで開く。

CLO Career は、食品・飲料業界における物流統括人材の招聘・育成・業務委託CLO/顧問契約までを一貫して支援している。経歴のコンフィデンシャルな登録は候補者の方向け、企業のご相談は企業向けページから、いずれも守秘契約のもとで受け付けている。

References

  1. 農林水産省『食品等の流通の合理化について』 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/ryutu/buturyu.html
  2. 経済産業省『CLO取組事例集』(2026年2月) https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
  3. 農林水産省『商慣習の見直しに取り組む食品事業者の公表』(令和7年10月)
  4. 環境省『我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和5年度)』 https://www.env.go.jp/press/press_00002.html
  5. 内閣官房『食品物流未来推進会議(SBM会議)自主行動計画』(2023年12月)
  6. 国土交通省『加工食品分野における物流標準化アクションプラン』(2020年3月)
  7. 公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会『2024年度 物流コスト調査報告書(概要版)』(2025年4月)
  8. 日経ビジネス『CLOオブザイヤー2025』(2025年5月)
  9. 株式会社 KI Strategy『AX Boost』 https://axboost.jp/
  10. 国土交通省『改正物流効率化法 理解促進ポータル』 https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
  11. 関連姉妹記事「CLO取組事例 完全解読」(/topics/clocases)
  12. 関連姉妹記事「共同物流の実装」(/topics/joint-logistics)
  13. 関連姉妹記事「荷主の物流効率化メニュー」(/topics/logistics-efficiency-menu)
  14. 関連姉妹記事「医薬・医療業界のCLO」(/topics/clo-pharma)