脱炭素、ESG、サステナビリティ──物流業界において、これらの取り組みは「CSRの域を超え、取引条件・人材獲得・経営戦略の中核」へと位置付けが変わった。2025年施行の改正物流効率化法が求める積載効率の向上やモーダルシフトは、そのままCO2削減の打ち手でもあり、法対応と脱炭素は同じ方向を向いている。物流業界におけるサステナビリティの重要性、差別化戦略としての可能性、海外・国内の企業事例、そして取り組みの開始ステップを読み解く。
物流業界におけるサステナビリティの重要性
日本においては、国家戦略の主要テーマとして、GX(グリーントランスフォーメーション)を掲げている。
二酸化炭素(脱炭素)領域については、2050年ネット・ゼロという野心的な目標を掲げ、その目標実行のための、さまざまな補助金や事業創発などを推進していく方針が明らかになっている。

物流業界は、各産業のサプライチェーンを結ぶ要であり、脱炭素をはじめとした、サステナビリティ領域の取り組みが重要視されている。
政策の面でも位置付けは明確になった。2026年3月31日に閣議決定された総合物流施策大綱(2026〜2030年度)は、5本柱の一つに「物流標準化と物流DX・GXの推進」を掲げる。さらに改正物流効率化法が全荷主・物流事業者に求める積載効率の向上・荷待ち時間の短縮・荷役等時間の短縮は、トラックの走行台数と待機を減らすという意味で、CO2削減とほぼ表裏の関係にある。法対応を進めることが、そのまま脱炭素の第一歩になる構図だ。
物流業界における重要指標となるQCDS
物流業界ではこれまで、顧客満足度や、物の破損を起こさないなどのQuality(品質)、より安くという意味でのCost(コスト)、より早く正確なタイミングで届けるDelivery(納期)が重要とされてきた。
そのため、QCDの観点で物流経営のモニタリングはよく行われてきた。ただ、政府の大方針、取引企業の方針、最終エンドクライアントの嗜好の変化なども相まって、QCDに加えて、Sustainability(サステナビリティ)の観点も求められるようになってきている。
QCD+Sの時代である。
Sの代表的な内容としては、脱炭素(カーボンニュートラル)、また働く人の環境などを含めた人権などが含まれる。
脱炭素やサステナビリティー対応は差別化戦略となるのか?
脱炭素やサステナビリティ対応というと、CSR(企業の社会的責任)としては理解できるが、それが具体的な収益につながるのか──という疑問がよく出る。そのための主要論点をいくつか紹介する。
サプライチェーン全体の二酸化炭素排出量という論点
まず、自社の視点から、お客様の視点に目を移してみる。例えば、東京証券取引所に上場しているプライム企業については、実行すべきガバナンスについて、コーポレートガバナンスコードに明記されている。そのコーポレートガバナンスコードには、下記が明記されている。
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
TCFDとは、「気候関連財務情報開示タスクフォース」のことで、企業の気候変動に関する情報開示のフレームワークである。気候変動に係る「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の開示を求めるものだが、二酸化炭素排出量については、自社だけでなく、取引先の二酸化炭素排出量も求めることが推奨されている。
この開示の流れは、その後さらに制度化が進んだ。TCFDの役割は2023年にIFRS財団のISSB基準へ引き継がれ、日本ではサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月に国内のサステナビリティ開示基準を確定させた。さらに2026年2月の開示府令等の改正により、プライム上場企業のうち平均時価総額の大きい企業から有価証券報告書での開示が段階的に義務化されることが決まり、大手荷主にとってサプライチェーン排出量の把握は「任意の推奨」から「制度上の要請」に変わりつつある。

つまり、上場企業としては、取引先の二酸化炭素排出量の開示が求められる中で、「対策をしっかりしている企業」と「全くしていない企業」があった際に、どちらと取引を実施するか──という問いに言い換えてもよい。
Scope 1〜3 と物流
二酸化炭素排出量については、下記の三つに分類される。
- Scope 1──自社の工場やオフィスから排出されるGHG排出量
- Scope 2──他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴うGHG排出量
- Scope 3──Scope 1、Scope 2 以外の間接排出
そして、サプライチェーン排出量 = Scope 1 排出量 + Scope 2 排出量 + Scope 3 排出量となる。物流に関わる排出は、Scope 3 のうちカテゴリ4(輸送・配送〔上流〕)とカテゴリ9(輸送・配送〔下流〕)に整理される(出典:環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」)。荷主の排出量報告に自社の輸送データが組み込まれる、という関係だ。カテゴリ4・9の切り分け基準と具体的な算定手法は物流のScope3排出量の算定ガイドにまとめている。
上場企業においては、TCFDのフレームワークもあるが、サプライチェーン排出量の開示が求められており、そうすると自動的にそうした大手と取引を考える物流企業については、必然的にカーボンニュートラルの取り組みを実施していかないと、生き残ることが難しくなってくる。
例えば、アップルやユニリーバのように、脱炭素の数値目標を掲げた企業のサプライチェーンに入ろうと考えた場合、カーボンニュートラルの取り組みは「できたらいいな」ではなく、必須という立て付けとなる。
人材獲得という主要テーマとしてのサステナビリティ
また、物流業界については、とにかく人手不足を経営課題に上げる企業が多いのが現状である。
そうした際に、人材獲得の観点からも、働き方や人的資本経営など、サステナビリティ領域の対策が重要になってきている。
給与で差別化しにくい物流業界ほど、『なぜこの会社で働くのか』を語る軸が要る。ドライバー不足が深刻ないま、労働環境や『この会社は社会にどう貢献するのか』という物語は、賃金以外で選ばれるための数少ない差別化材料になっている。
サステナビリティアクション事例 — 海外・国内
物流のサステナビリティが面白いのは、環境負荷を減らす施策が、たいていコストも下げる点にある。再配達削減の「置き配」、AIによる需要予測やルート最適化——いずれも排出と無駄な走行を同時に削る。脱炭素が採算と両立しうるのは、物流ならではの領域だ。消費者との関わりで言えば、置き配はすでに利用している方も多いだろう。
また、昨今のAIなどの進展に基づく、需要予測やルート最適化などもそうした取り組み事例となる。物流業界のサステナビリティのアクションは欧米企業が先行してきたが、国内でも事例が増えている。共通するのは、個別のアクションだけでなく、会社の数値目標とセットになっている点である。
DHL における EV 導入というラストマイル物流への投資
DHLでは、2050年までの実質排出量ゼロの目標に向け、例えばラストマイル配送用の電気自動車(EV)に投資することで脱炭素化に積極的に取り組んでおり、2030年までにラストマイル(集配)車両の60%を電気自動車にすることを目指している(出典:DHL Group「GoGreen」サステナビリティ目標 https://group.dhl.com/en/sustainability/environment/green-last-mile-line-haul.html)。
また、持続可能な航空燃料(SAF)を導入して、航空輸送に関連する炭素排出量を最大80%削減するなどを推進している(出典:DHL Group プレスリリース「DHL Express launches GoGreen Plus」2023年2月)。
そして物流会社でありながら、CO₂排出量レポート等のサービス展開も推進するなど、脱炭素領域で積極的なアクションを展開している。
- 排出量の計測・計算ツール
- 排出量に関するレポート
- 他社企業との比較
- 排出削減等に関するコンサルティング

IKEA による消費者ニーズや動向を踏まえた目標コミットメント
消費者においても、同じ机やソファーを買うなら、その商品やサービスの背景にあるストーリーも差別化要素に組み入れられてきている。
そうした消費者ニーズに答えるために、IKEAでは、2016年(FY16)を基準に、2030年(FY30)までにバリューチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量を半減(約50%削減)させる目標をセットしている(出典:Inter IKEA Group「Our climate agenda」FY30目標)。
IKEAは包装材の軽量化と再生素材への切り替えも進めている。梱包を小さくすれば1台のトラックに載る商品が増え、輸送あたりの排出も減る——廃棄物の削減と物流効率が同じ方向を向く好例だ。
国内の事例 — 共同輸配送とモーダルシフト
国内でも、脱炭素と物流効率化を同時に進める事例は着実に増えている。象徴的なのが食品大手による共同輸配送だ。味の素・カゴメ・日清オイリオグループ・日清製粉ウェルナ・ハウス食品グループ本社の出資で2019年に発足したF-LINEは「競争は商品で、物流は共同で」を掲げ、北海道の共同配送拠点集約では配送回数の削減でCO2を約16%減らす見込みを示した(出典:食品メーカー6社・F-LINE 共同プレスリリース、2023年7月)。味の素単体でも、500km以上の長距離輸送のモーダルシフト率を2021年度に9割まで高めている(出典:味の素グループ)。
排出構造が違えば打ち手も違う。完成車輸出の比率が高いSUBARUはRORO船によるモーダルシフトを中心に据え、全国配送網を持つ食品卸の三菱食品は走行ログや拠点の滞留時間のデータで無駄な待機・空走を定量的に洗い出す(出典:経済産業省『CLO取組事例集』)。取り組みの型は共同物流の記事と物流業界の環境問題の記事で業界別に整理している。
物流業界のサステナビリティ、脱炭素、ESGの取り組みはどこから始めるべきか
企業のステータスや状況はまちまちである一方で、比較的初期から、そうした取り組みを実施しようと考えた場合、どこからスタートすべきかについて解説する。
関係者の一定の理解と前提知識の共有は必須
よくある進め方は以下の通りである。
- ①目線合わせ──まずは、社内・ステークホルダー(関係者)の目線合わせ
- ②目的・目標の明文化──必要性や意義などが理解された段階で、目的・目標の明文化
- ③優先順位とステップ策定──目的・目標の方向性が大枠定まったら、具体的なアクションの優先順位とステップ策定
- ④アクションの実行──具体的なアクションの実行
サステナビリティ、脱炭素、ESGに関する知見が全くない場合は、専門家を一時的にも伴走役としてアサインすることをおすすめする。
改正物流効率化法で特定荷主(年度取扱貨物9万トン以上)に選任が義務づけられたCLO(物流統括管理者)も、全社のサプライチェーンに責任を持つ立場として、この領域に関わることになる。サステナビリティ専門の役員が別にいる企業もあるが、物流のCO2排出や労働環境はサプライチェーンと不可分である以上、CLOがリーダーシップを取って推進する場面は避けられない。
外部専門家の知見も入れつつ推進
サステナビリティ領域の知見を外部に求める場合は、専門家のプラットフォームサービス(Sasla〔サスラ〕など)を、スポットや伴走の形で活用する選択肢もある。
知見のみ提供するスポット支援、また担当者の横について推進していく伴走支援などニーズに応じて柔軟に専門家からのサポートを受けられる。

まとめ
カーボンニュートラルは国家戦略でありグローバル目標であり、そのなかで物流業界はサプライチェーンの要の位置にいる。脱炭素目標にコミットした大手企業のサプライチェーンに参画するなら、取り組みはもはや任意ではなく取引の前提条件だ。しかも物流では、積載効率の向上や再配達の削減、梱包の軽量化のように、排出とコストを同時に削る施策が多く、改正物流効率化法への対応とも方向が一致する。始め方に迷うなら、社内の目線合わせと目的の明文化から着手し、必要に応じて一時的にでも専門家の知見や伴走を入れる——それが遠回りに見えて最短のルートである。
よくある質問(FAQ)
References
- 経済産業省『我が国のグリーントランスフォーメーション政策』 https://www.meti.go.jp/policy/energyenvironment/globalwarming/transition/pathwaystogreen_transformation.pdf
- 国土交通省 報道発表「『総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)』を閣議決定」(2026年3月31日) https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000998.html
- 株式会社東京証券取引所『コーポレートガバナンス・コード』(2021年6月)
- サステナビリティ基準委員会(SSBJ)「サステナビリティ開示基準」(2025年3月確定)
- 環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」
- 経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』令和8年2月 https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
- DHL『CARBON CALCULATOR』 https://carboncalculator.dhl.com/
- Sasla(サステナビリティ領域の専門家プラットフォーム)https://sasla.jp/



