物流のデジタル化(物流DX)は「アナログ業務のデジタル化」から「経営革新(DX)」まで段階がある。物流の現場にはアナログ運用が広く残る一方、2025年4月に施行された改正物流効率化法はすべての荷主・物流事業者に物流効率化の努力義務を課し、2026年4月には特定荷主等への計画・報告の義務化まで進んだ。デジタル化は「あれば便利」から、運べる荷量と法対応を支える経営の前提条件に変わっている。物流デジタル化の定義から優先すべき領域、推進の5段階、そしてCLO(物流統括管理者)が握るべき判断までを順に見ていく。
物流DX・物流デジタル化とは
DXとはデジタル・トランスフォーメーション、すなわちデジタル技術による変革を指す。国土交通省は物流DXを「単なるデジタル化・機械化ではなく、それによりオペレーション改善や働き方改革を実現し、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させることで、これまでの物流のあり方を変革する」取組と定義している(出典:国土交通省「物流DXの推進」)。
定義に忠実であろうとすれば「単なるデジタル化はDXではない」となる。ただ実際には、いきなり全社を「変革」できる企業はまれで、個々の業務のデジタル化を積み上げた先にDX(変革)が立ち上がる、という順序をたどることが多い。デジタル化とDXは別物というより、デジタル化の目指すべき先にDXがあると捉えた方が、推進者にとってはイメージしやすい。
なお「物流デジタル化」「物流DX」「デジタルトランスフォーメーション」といった近接用語の定義の違いと使い分けは物流DX用語ガイドに譲り、この記事は進め方に集中する。
物流領域のデジタル化の進展率と、日本でDXが進みにくい理由
物流領域のデジタル化は、総務省の2021年調査時点でも他業界と比べた遅れが示されていた(Figure 01)。現場には紙・FAX・口頭連絡などのアナログ運用が広く残り、デジタル化の余地が大きい。

物流領域でデジタル化が進まない要因は一つではないが、背景の一つに、日本の柔軟性や臨機応変対応——いわゆる現場力の強さがあるのは間違いない。
ある意味、欧米のように業務が標準化されており、決まり切った業務しかしない場合については、デジタル化は非常に進みやすい。対して日本では、現場の広い意味での「おもてなし」が、DXやデジタル化の推進を阻害している側面もある。
とはいえ、現場力が高いからデジタル化は要らない、とはならない。物流2024年問題でドライバーの時間外労働には年960時間の上限が適用され(出典:働き方改革関連法に基づく時間外労働の上限規制・2024年4月から自動車運転業務に適用)、同じ荷量を運ぶのに必要な人と車が物理的に足りない。手作業の配車や点呼を残したままでは、増えた事務工数がさらに現場を圧迫する。もはや後回しの利く投資ではない。
政策も同じ方向を指している。2026年3月31日に閣議決定された総合物流施策大綱(2026〜2030年度)は、2030年度までを物流革新の「集中改革期間」と位置づけ、5本柱の一つに「物流標準化と物流DX・GXの推進」を掲げた。個社のデジタル化は、国が進める標準化・データ連携の流れに沿うほど投資対効果が高まる局面にある。
デジタル化の対象領域 — 運送・倉庫・荷主・ビジネス基盤
では、具体的にどの業務をデジタル化するのか。運送・倉庫事業者の業務、荷主側の業務、そして事業を支える基盤の3つに分けて整理する。
運送・倉庫会社のデジタル領域
運送事業者のデジタル化の対象は広いが、効果が出やすいのは紙・FAX依存度が高く工数の大きい領域だ。下記の業務群のうち、契約〜請求や配車、そして点呼(アルコールチェック記録の保存が求められ、電子化ニーズが高い)あたりから着手すると、投資が早く回収しやすい。
- 契約・見積り・受注・請求
- 配車計画・配車手続き・運行管理
- 点呼(アルコールチェック含む)
- 車両点検
- 入館管理
- 完了連絡・退館管理
- 貨物照会・納品・検品
- 日報管理
- 労務管理
また、倉庫を保有している運送会社の場合は、その他に下記の領域もある。
- 検収、検品
- 在庫更新、在庫管理、棚卸、在庫引き当て
- 指示書受け渡し
- ピッキング、出荷伝票作成

荷主側のデジタル領域
荷主企業(メーカー・卸・小売)側にも固有のデジタル領域がある。受発注のEDI化、出荷指示と輸配送管理、トラック予約受付システム、在庫管理と需要予測——いずれも取引先や物流事業者とのデータ連携が価値の源泉になる。改正物流効率化法への対応で求められる荷待ち・荷役等時間の実態把握や積載効率の算出も、荷主側にデータの受け皿があって初めて回る。倉庫の中核システムであるWMSの導入判断は倉庫DX完全ガイドで詳述している。
ビジネス基盤領域のデジタル化も
上記は、運送や倉庫ビジネスの業務となるが、そもそもビジネスを成り立たせるためには、様々なバックオフィス的な基盤システムがある。分かりやすいところでは、メールを活用していない会社はほぼ無いだろう。その他にも人事系など多様なデジタル化領域がある。
- 採用・人事・勤怠・給与などの人事労務系システム
- 経理・会計・固定資産などの会計系
- 販売管理、SCM、調達管理
- 文書管理、カスタマーサポート
- ERP、CRM、WMS、OMS など
物流デジタルトランスフォーメーションの具体的な進め方
具体的な進め方を5つの段階に分けて紹介する。自社がいまどの段階にいるかを確かめながら読み進めてほしい。
3-1 アナログ情報のデジタル化
まずは、紙やFAXなど手動で管理しているアナログ情報をデジタル化し、効率的に管理・共有できることを目指す。
もちろん純粋に紙で管理するよりもデジタルの方が効率的という側面もあるが、今後の経営課題や事業開発のヒントとしても、情報をデジタル化することで各種分析が可能となる。
この段階は、高度なシステム投資が前提になるわけではない。経産省『CLO取組事例集』 p.8 に収録された梅の花グループ(年商約294億円の外食・中食)は、「まずは可視化から」を合言葉に、Excel等の自社で実行可能な手段で最低限のデータを集め、事実に基づく改善サイクルを回す考え方を示している。第一歩はツール選定ではなく、集めるデータを決めることにある。
3-2 業務プロセスのデジタル化
次に、既存の業務プロセスをITツールやシステムを使って自動化・効率化できる領域がないか模索する。
例えば、勤怠管理や請求処理の自動化、ERP・CRMシステムの導入などが挙げられる。また、「運送・倉庫会社のデジタル領域」でも紹介した、各種業務プロセスのデジタル化もその代表例となる。
3-3 組織・サプライチェーン全体のデジタル化
単一の業務のデジタル化だけでなく、それを全社やサプライチェーン全体として捉えた際に、最適なものになっているか検討する。例えば、輸送コストを抑えようとしたら保管コストが増大するなど、部門間にまたがるトレードオフが発生するのが経営である。
また昨今、デジタル化は自社だけでなく、サプライチェーン全体として取り組む必要が出てきている。そうした際に重要な概念として、サプライウェブ(蜘蛛の巣)というものがある。
これまで、企業の物流というと、まさに一直線の鎖(チェーン)のように川上から川下まで流れることのメタファーとして、サプライチェーンという言葉が使われてきた。一方で、今後はデジタル化の進展も相まって、より最適な取引先とのサプライネットワークを、まさに蜘蛛の巣の網の目のように構築していくという、サプライウェブという概念が登場してきている。
そうした新たな取引の前提条件として、デジタル化やシステム連携のしやすさなどが挙げられることとなる。
3-4 顧客体験のデジタル化
荷主から見れば、追跡番号を入れても貨物がいまどこにあるか分からない、納品予定を電話でしか確認できない——こうした『デジタル化されていない不便』が、取引先離脱の引き金になる。顧客接点のデジタル化は、満足度を上げる以前に、選ばれ続けるための競争条件である。
また逆に言えば、デジタル化されていないことで、顕在的・潜在的に顧客や取引先が、不便・不満・不利益になっている領域がないか模索していくことになる。
オンラインチャネルの強化や、カスタマイズされたデジタルサービスの提供も、こうしたアクションとなる。
3-5 デジタルによる経営革新
DXは変革だという定義に照らせば、最後に来るのは、デジタル化によってビジネスモデルの変革や経営革新を推進するフェーズである。
一例が、データドリブン経営の深化や、サブスクリプション型への事業転換である。
DX領域のCLOの役割
物流の改善は、配車も在庫も荷待ちも、いまやデータを動かさずには進まない。全社の物流に責任を負うCLO(物流統括管理者)にとって、DXは『IT部門の話』ではなく、自分の管掌そのものになっている。
例えば法改正が求める『荷待ち時間の短縮』ひとつとっても、どの便がどの拠点で何分待っているかを紙とExcelの手集計で追うのは現実的でない。可視化の仕組みなしに各拠点が個別に動けば、全社では部分最適の寄せ集めに終わりがちだ。
CIOやDX担当役員を置く企業も増えたが、物流のDXでは両者の管掌が衝突しやすい。たとえばWMSの刷新予算を誰が握るのか、配送網の再設計をシステム都合で決めるのか物流戦略から決めるのか——こうした局面で、サプライチェーン全体を見るCLOが最終的にどの判断を担うのかを、あらかじめ決めておく必要がある。
特定荷主では、この職責が文書義務としても現れる。中長期計画書(様式第3)には情報処理システムや器具・設備の標準化に関する計画を盛り込み、毎年度の定期報告書では積載効率・荷待ち時間・荷役等時間のKPIをデータで裏づける必要がある。デジタル化の遅れは、そのまま法対応の作業負荷に跳ね返る。計画と報告の実務は特定荷主の実務ガイドに整理した。
まとめ
物流のデジタル化・DXには他業界比の遅れが残るが、裏返せば、着手した企業から差がつく領域だということでもある。2025年の努力義務化、2026年の特定荷主への義務化、そして大綱が定めた集中改革期間と、政策は一方向に進んでおり、デジタル化はもはや任意の改善活動ではない。アナログ情報のデジタル化から始めて、業務プロセス、サプライチェーン全体、顧客体験、経営革新へ。5つの段階を意識しながら、CLOのリーダーシップの下で、拠点ごとのばらばらな導入に終わらない全体設計を持てるかどうかが、これからの3年の分かれ目になる。
よくある質問(FAQ)
References
- 国土交通省「物流DXの推進」 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000018.html
- 国土交通省 報道発表「『総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)』を閣議決定」(2026年3月31日) https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000998.html
- 国土交通省『物流業務のデジタル化の手引き』 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001608991.pdf
- 総務省『我が国におけるデジタル化の取組状況(2021年)』 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112420.html
- 経済産業省『「物流効率化法」対応の手引書 — 特定荷主編』第1.1版(2026年4月) https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/specified-sippers_ver.1.0.pdf
- 経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』令和8年2月 https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf



