物流DXは「アナログのデジタル化」から「経営革新」まで段階がある。総務省調査で物流業界のDX実施率は16.9%にとどまり、業界平均を大きく下回っているが、人手不足と生産性確保の観点から推進は不可避である。本稿では、物流DXの定義、デジタル化が必要な領域、推進の5段階、そしてCLOの役割を整理する。

物流DXとは

DXとは、デジタル・トランスフォーメーションのことである。トランスフォーメーション(変革)を指すため、単なるデジタル化はDXではない、というような解説も目立つ。

それはそれで正しいが、一方で、企業の実務や支援の実態から考えると、一足飛びに企業を「変革」することは難しく、個別・全体でのデジタル化を通じて、DX(変革)を進めていくというケースが多いのが現状である。

そういう意味では、デジタル化とDXは違うものを指すというよりは、デジタル化の目指すべき先にDXがあると捉えた方が、DX推進者にとってはイメージしやすいかもしれない。

物流領域のデジタル化の進展率と、日本でDXが進みにくい理由

物流領域のDXは、他の業界と比べてもデジタル化は非常に低いのが現状である。総務省の調査によると、業界平均では16.9%程度しかDXが進んでいない。

16.9%
物流業界のDX実施率。全産業平均より下位帯域に位置し、人手不足を背景にDXの推進は死活問題となっている。
出典:総務省『我が国におけるデジタル化の取組状況(2021年)』
Figure 01 / 業界別 DX推進率比較
Figure 01 / 業界別 DX推進率比較出典:総務省『我が国におけるデジタル化の取組状況(2021年)』

物流領域でデジタル化が進まない要因としては、様々な理由が考えられる。背景として一つ言えるのは、日本の柔軟性や臨機応変対応など、いわゆる現場力の強さもあるのは間違いない。

ある意味、欧米のように業務が標準化されており、決まり切った業務しかしない場合については、デジタル化は非常に進みやすい。対して日本では、現場の広い意味での「おもてなし」が、DXやデジタル化の推進を阻害している側面もある。

とはいえ、日本は柔軟性や臨機応変力が高いから、デジタル化やDXは推進しなくていいということにはならない。なぜなら、人手不足を中心に、生産性・効率性を確保していかないと、業界としても、また企業としても、持続可能性を担保することが難しいからである。

物流領域のデジタル領域

デジタル化やDXが必要とした前提で、物流領域のデジタル化とは具体的にどのようなテーマがあるのかを紹介する。

運送・倉庫会社のデジタル領域

運送事業者のビジネス領域としては、下記が挙げられる。

  • 契約、見積り、受注、請求業務
  • 配車計画、手続き、管理業務
  • 点呼業務
  • 車両点検業務
  • 入館管理業務
  • 完了連絡、退館管理業務
  • 貨物照会、納品、検品業務
  • 日報管理業務
  • 労務管理業務

また、倉庫を保有している運送会社の場合は、その他に下記の領域もある。

  • 検収、検品
  • 在庫更新、在庫管理、棚卸、在庫引き当て
  • 指示書受け渡し
  • ピッキング、出荷伝票作成
Figure 02 / 運送事業者のデジタル業務分類
Figure 02 / 運送事業者のデジタル業務分類出典:国土交通省『物流業務のデジタル化の手引き』

ビジネス基盤領域のデジタル化も

上記は、運送や倉庫ビジネスの業務となるが、そもそもビジネスを成り立たせるためには、様々なバックオフィス的な基盤システムがある。分かりやすいところでは、メールを活用していない会社はほぼ無いだろう。その他にも人事系など多様なデジタル化領域がある。

  • 採用管理、人事管理、勤怠管理、給与管理システム
  • 経理、会計、固定資産システム
  • 販売管理、SCM、調達管理システム
  • 文書管理、カスタマーサポートシステム
  • ERP、CRM、WMS、OMS など

物流デジタルトランスフォーメーションの具体的な進め方

DXの推進状況のチェックリストと共に、具体的な進め方を5つの段階に分けて紹介する。

3-1 アナログ情報のデジタル化

まずは、紙やFAXなど手動で管理しているアナログ情報をデジタル化し、効率的に管理・共有できることを目指す。

もちろん純粋に紙で管理するよりもデジタルの方が効率的という側面もあるが、今後の経営課題や事業開発のヒントとしても、情報をデジタル化することで各種分析が可能となる。

3-2 業務プロセスのデジタル化

次に、既存の業務プロセスをITツールやシステムを使って自動化・効率化できる領域がないか模索する。

例えば、勤怠管理や請求処理の自動化、ERP・CRMシステムの導入などが挙げられる。また、「運送・倉庫会社のデジタル領域」でも紹介した、各種業務プロセスのデジタル化もその代表例となる。

3-3 組織・サプライチェーン全体のデジタル化

単一の業務のデジタル化だけでなく、それを全社やサプライチェーン全体として捉えた際に、最適なものになっているか検討する。例えば、輸送コストを抑えようとしたら保管コストが増大するなど、部門間にまたがるトレードオフが発生するのが経営である。

また昨今、デジタル化は自社だけでなく、サプライチェーン全体として取り組む必要が出てきている。そうした際に重要な概念として、サプライウェブ(蜘蛛の巣)というものがある。

これまで、企業の物流というと、まさに一直線の鎖(チェーン)のように川上から川下まで流れることのメタファーとして、サプライチェーンという言葉が使われてきた。一方で、今後はデジタル化の進展も相まって、より最適な取引先とのサプライネットワークを、まさに蜘蛛の巣の網の目のように構築していくという、サプライウェブという概念が登場してきている。

そうした新たな取引の前提条件として、デジタル化やシステム連携のしやすさなどが挙げられることとなる。

3-4 顧客体験のデジタル化

「経営とは顧客開発だ」という言葉もある通り、顧客体験は非常に重要な観点である。顧客との接点や体験をデジタル化し、満足度向上や新たなビジネスチャンスはないか模索する必要がある。

また逆に言えば、デジタル化されていないことで、顕在的・潜在的に顧客や取引先が、不便・不満・不利益になっている領域がないか模索していくことになる。

例えば、オンラインチャネルの強化、カスタマイズされたデジタルサービス提供などの取り組みも、こうしたアクションとなる。

3-5 デジタルによる経営革新

DXは、デジタルトランスフォーメーション──つまり変革だという定義に照らせば、デジタル化によっていかにビジネスモデルの変革や経営革新を推進していくフェーズがある。

例えば、データドリブン経営の深化や、サブスクリプションビジネスへの変革などが挙げられる。

DX領域のCLOの役割

企業のデジタル化・DXにおいても、CLO(物流統括責任者・物流担当役員)の役割は重要である。

企業価値向上の持続的発展に向けて、全社のサプライチェーン・ロジスティクス全体の責任と権限を有するCLOとしては、DXは切っても切り離せないためである。

例えば、「荷待ち時間の短縮」というような法改正に伴う具体的なテーマ一つ取ったとしても、アナログで手分析で改善するようにはとても思えないし、個別最適になる、悪い方の最たる例となりがちである。

DXやIT推進の担当役員が設置されているケースも多いとは思うが、サプライチェーン・ロジスティクス全体の責任として、CLOのリーダーシップも求められている。

まとめ

本稿の要点は以下の通りである。

  • 物流領域のデジタル化・DXは他業界と比較しても進んでいない。
  • 一方で、人手不足や生産性向上が求められる業界としてはDXの推進は死活問題。
  • DXの推進は単にアナログ業務のデジタル化だけでなく、サプライチェーン全体を踏まえた全体最適への深化が求められている。
  • DXの推進役として、CLOの役割やリーダーシップも求められている。

References

  1. 総務省『我が国におけるデジタル化の取組状況(2021年)』 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112420.html
  2. 国土交通省『物流業務のデジタル化の手引き』 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001608991.pdf