物流のデジタル化(物流DX)は「アナログ業務のデジタル化」から「経営革新(DX)」まで段階がある。物流の現場は紙・FAX等のアナログ運用が広く残り、他業界と比べてもデジタル化の余地が大きいが、人手不足と生産性確保の観点から推進は不可避である。本稿は、物流デジタル化の定義、デジタル化が必要な領域、推進の5段階、そしてCLO(物流統括管理者)の役割を順に俯瞰する。
物流DX・物流デジタル化とは
DXとは、デジタル・トランスフォーメーションのことである。トランスフォーメーション(変革)を指すため、単なるデジタル化はDXではない、というような解説も目立つ。
それはそれで正しい。ただ実際には、いきなり全社を「変革」できる企業はまれで、個々の業務のデジタル化を積み上げた先にDX(変革)が立ち上がる、という順序をたどることが多い。
そういう意味では、デジタル化とDXは違うものを指すというよりは、デジタル化の目指すべき先にDXがあると捉えた方が、DX推進者にとってはイメージしやすいかもしれない。
物流領域のデジタル化の進展率と、日本でDXが進みにくい理由
物流領域のDXは、他の業界と比べてもデジタル化は遅れているのが現状である。現場には紙・FAX・口頭連絡などのアナログ運用が広く残り、デジタル化の余地が大きい。

物流領域でデジタル化が進まない要因としては、様々な理由が考えられる。背景として一つ言えるのは、日本の柔軟性や臨機応変対応など、いわゆる現場力の強さもあるのは間違いない。
ある意味、欧米のように業務が標準化されており、決まり切った業務しかしない場合については、デジタル化は非常に進みやすい。対して日本では、現場の広い意味での「おもてなし」が、DXやデジタル化の推進を阻害している側面もある。
とはいえ、現場力が高いからデジタル化は要らない、とはならない。ドライバーの時間外労働が年960時間に制限されたいま、同じ荷量を運ぶのに必要な人と車が物理的に足りない。手作業の配車や点呼を残したままでは、増えた事務工数がさらに現場を圧迫する。デジタル化は『あれば便利』ではなく、運べる荷量を保つための前提条件に変わった。
物流領域のデジタル領域
デジタル化やDXが必要とした前提で、物流領域のデジタル化とは具体的にどのようなテーマがあるのかを紹介する。
運送・倉庫会社のデジタル領域
運送事業者のデジタル化の対象は広いが、効果が出やすいのは紙・FAX依存度が高く工数の大きい領域だ。下記の業務群のうち、契約〜請求や配車、そして点呼(アルコールチェックの義務化で記録の電子化ニーズが高い)あたりから着手すると、投資が早く回収しやすい。
- 契約・見積り・受注・請求
- 配車計画・配車手続き・運行管理
- 点呼(アルコールチェック含む)
- 車両点検
- 入館管理
- 完了連絡・退館管理
- 貨物照会・納品・検品
- 日報管理
- 労務管理
また、倉庫を保有している運送会社の場合は、その他に下記の領域もある。
- 検収、検品
- 在庫更新、在庫管理、棚卸、在庫引き当て
- 指示書受け渡し
- ピッキング、出荷伝票作成

ビジネス基盤領域のデジタル化も
上記は、運送や倉庫ビジネスの業務となるが、そもそもビジネスを成り立たせるためには、様々なバックオフィス的な基盤システムがある。分かりやすいところでは、メールを活用していない会社はほぼ無いだろう。その他にも人事系など多様なデジタル化領域がある。
- 採用管理、人事管理、勤怠管理、給与管理システム
- 経理、会計、固定資産システム
- 販売管理、SCM、調達管理システム
- 文書管理、カスタマーサポートシステム
- ERP、CRM、WMS、OMS など
物流デジタルトランスフォーメーションの具体的な進め方
DXの推進状況のチェックリストと共に、具体的な進め方を5つの段階に分けて紹介する。
3-1 アナログ情報のデジタル化
まずは、紙やFAXなど手動で管理しているアナログ情報をデジタル化し、効率的に管理・共有できることを目指す。
もちろん純粋に紙で管理するよりもデジタルの方が効率的という側面もあるが、今後の経営課題や事業開発のヒントとしても、情報をデジタル化することで各種分析が可能となる。
3-2 業務プロセスのデジタル化
次に、既存の業務プロセスをITツールやシステムを使って自動化・効率化できる領域がないか模索する。
例えば、勤怠管理や請求処理の自動化、ERP・CRMシステムの導入などが挙げられる。また、「運送・倉庫会社のデジタル領域」でも紹介した、各種業務プロセスのデジタル化もその代表例となる。
3-3 組織・サプライチェーン全体のデジタル化
単一の業務のデジタル化だけでなく、それを全社やサプライチェーン全体として捉えた際に、最適なものになっているか検討する。例えば、輸送コストを抑えようとしたら保管コストが増大するなど、部門間にまたがるトレードオフが発生するのが経営である。
また昨今、デジタル化は自社だけでなく、サプライチェーン全体として取り組む必要が出てきている。そうした際に重要な概念として、サプライウェブ(蜘蛛の巣)というものがある。
これまで、企業の物流というと、まさに一直線の鎖(チェーン)のように川上から川下まで流れることのメタファーとして、サプライチェーンという言葉が使われてきた。一方で、今後はデジタル化の進展も相まって、より最適な取引先とのサプライネットワークを、まさに蜘蛛の巣の網の目のように構築していくという、サプライウェブという概念が登場してきている。
そうした新たな取引の前提条件として、デジタル化やシステム連携のしやすさなどが挙げられることとなる。
3-4 顧客体験のデジタル化
荷主から見れば、追跡番号を入れても貨物がいまどこにあるか分からない、納品予定を電話でしか確認できない——こうした『デジタル化されていない不便』が、取引先離脱の引き金になる。顧客接点のデジタル化は、満足度を上げる以前に、選ばれ続けるための競争条件である。
また逆に言えば、デジタル化されていないことで、顕在的・潜在的に顧客や取引先が、不便・不満・不利益になっている領域がないか模索していくことになる。
例えば、オンラインチャネルの強化、カスタマイズされたデジタルサービス提供などの取り組みも、こうしたアクションとなる。
3-5 デジタルによる経営革新
DXは、デジタルトランスフォーメーション──つまり変革だという定義に照らせば、デジタル化によっていかにビジネスモデルの変革や経営革新を推進していくフェーズがある。
例えば、データドリブン経営の深化や、サブスクリプションビジネスへの変革などが挙げられる。
DX領域のCLOの役割
企業のデジタル化・DXにおいても、CLO(物流統括責任者・物流担当役員)の役割は重要である。
物流の改善は、配車も在庫も荷待ちも、いまやデータを動かさずには進まない。全社の物流に責任を負うCLOにとって、DXは『IT部門の話』ではなく、自分の管掌そのものになっている。
例えば法改正が求める『荷待ち時間の短縮』ひとつとっても、どの便がどの拠点で何分待っているかを紙とExcelの手集計で追うのは現実的でない。可視化の仕組みなしに各拠点が個別に動けば、全社では部分最適の寄せ集めに終わりがちだ。
CIOやDX担当役員を置く企業も増えたが、物流のDXでは両者の管掌が衝突しやすい。たとえばWMSの刷新予算を誰が握るのか、配送網の再設計をシステム都合で決めるのか物流戦略から決めるのか——こうした局面で、サプライチェーン全体を見るCLOが最終的にどの判断を担うのかを、あらかじめ決めておく必要がある。
まとめ
本稿の要点は以下の通りである。
- 物流領域のデジタル化・DXは他業界と比較しても進んでいない。
- 一方で、人手不足や生産性向上が求められる業界としてはDXの推進は死活問題。
- DXの推進は単にアナログ業務のデジタル化だけでなく、サプライチェーン全体を踏まえた全体最適への深化が求められている。
- DXの推進役として、CLOの役割やリーダーシップも求められている。
References
- 総務省『我が国におけるデジタル化の取組状況(2021年)』 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112420.html
- 国土交通省『物流業務のデジタル化の手引き』 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001608991.pdf



