2025年4月の改正物流効率化法一部施行を経て、経済産業省は『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』(令和8年2月、全46ページ)として、8社+特別編1社のCLO先行事例を公開した。本稿は同事例集に掲載された情報を一次出典とし、各社の選任背景・組織設計・主要取組を横断的に整理する。業種規模や業界特性の違いを超えて見出される共通パターンと、自社が次に検討すべき具体的アクションへの落とし込みを目的とする。なお、本稿に登場する企業名・取組内容・人事配置はすべて経済産業省が同事例集で公表した情報の要約・引用であり、CLO Careerが各社と直接の関与を持つことを示すものではない。

なぜ「事例」を読むのか — 経産省事例集の位置付け

経済産業省は2025年4月の改正物流効率化法一部施行を経て、特定荷主等の円滑なCLO選任を支援する目的で、令和8(2026)年2月に『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』を公表した。同事例集は、CLO選任に悩む特定荷主等に先行企業の優良事例を提示することを狙いとしている。

事例集 p.2 において、活用シーンとして以下の3つが想定されている。

  • 社内理解促進のツール──物流改革の重要性とCLOの役割について、社内の共通認識を形成するための説明資料。
  • 新任CLOの実践ガイド──何から着手すべきか、社内外連携や荷主の取組の具体例。
  • CLO選任のモデルケース──業種・企業風土・物流課題に応じた人物像の検討材料。

国土交通省の提言『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』が「規範」であるとすれば、経産省の事例集は「実践」である。両者は対の関係にあり、姉妹記事「改正物流効率化法とCLO選任義務 完全ガイド」(規範編)と本稿(実践編)で対照させながら読み解くことを推奨する。

9社の概観 — 業界・規模・先行度

経産省事例集には、8社の事例+特別編1社の計9社が掲載されている。業種・規模は多様で、自動車・空調といった製造業大手から、食品メーカー・食品卸、外食・中食、インテリア商社、SPA小売まで幅広い。同事例集 p.2 の目次に基づき、各事例の切り口を整理すると以下のとおりである。

  • CASE 01 梅の花グループ(外食・中食)──CLO×物流部長の二人三脚で中堅企業の改革を加速。
  • CASE 02 サンゲツ(インテリア)──安全を土台に、可視化から自動化へ移行。
  • CASE 03 J-オイルミルズ(食用油)──業界連携・社内外「対話」で構造課題に挑む。
  • CASE 04 SUBARU(自動車)──物流本部新設+CLO先行設置で全社最適。
  • CASE 05 ダイキン工業(空調)──SCM管掌役員がCLOへ、対策委員会で全社展開。
  • CASE 06 日清食品(食品)──Well-being実現のためのサプライチェーン。
  • CASE 07 日本アクセス(食品卸)──ロジスティクス管掌の延長として早期設置。
  • CASE 08 三菱食品(食品卸)──トップダウンでコストセンター→成長領域へ。
  • 特別編 アルペン(SPA小売)──特定荷主非該当でもCLO相当機能を先行実装。

規模分布も特筆に値する。SUBARU・ダイキン・三菱食品・日本アクセスは年商1兆円超の大企業として事例集に掲載されているが、梅の花グループは年商約294億円の中堅、アルペン(特別編)は特定荷主にすら該当しない事例として収録されている。経済産業省が、CLO選任の取り組みを大企業のみの課題と位置付けていないことを示唆する構成である。

横断視点① — CLO設置タイミング・経緯の3パターン

経産省事例集を横断的に読み解くと、CLO設置に至る経緯は概ね3つのパターンに整理できる。以下、同事例集の記述に基づく類型化である。

パターンA — 法施行を契機として既存ポストをCLOに昇格

ダイキン工業がその典型である。事例集 p.22 によれば、同社は1984年に物流本部を創設し、10年以上前から物流担当役員を設置、その後SCM部とSCM担当役員も設けてきた。改正法を機に、既存のSCM管掌役員がCLOに就任する形で連続性を確保している。三菱食品も同様で、2019年4月にSCM統括ポストを新設し、2025年1月にCLO設置を対外的に公表した(事例集 p.34)。

パターンB — 法施行に先んじて先行設置

SUBARUは2025年4月、各部門に分散していた物流組織を統合する「物流本部」を新設し、本部長がCLOを兼任する体制を、法令義務化の1年前に先行設置したと事例集 p.18 に記述されている。日本アクセスも同様に、2024年7月、義務化期間を待たずCLO設置を対外公表した(事例集 p.30)。先行設置型のメッセージは「自社の物流改革への本気度を社内外に明示する」である。

パターンC — 法対応とは別軸の構造改革の一環

日清食品では、2015年頃に開始された「生産性200%向上」の構造改革が、2019年の事業統括本部設立、2022年のWell-being推進部開設を経て、CLO設置に至ったと事例集 p.26 に記載されている。法対応はあくまで「契機の一つ」であり、本質的な動機は経営構造改革であった。梅の花グループも同様に、2019年の物流部新設に始まるSCM一体化の流れの中で、2024年11月に取締役(製造・物流管掌)兼 製造部長のポストが設置された(事例集 p.6-7)。

この3パターンは排他的ではなく、各社で複数の要素が組み合わさっている。重要な示唆は、法対応を起点とするか、既存の経営課題を起点とするかで、CLOの権限設計や発信メッセージが変わってくるという点である。

横断視点② — CLOチーム・組織体制の類型

経産省事例集の各社事例から、CLOを支える組織体制は概ね4類型に整理できる。

物流本部新設型

SUBARU・ダイキン工業・三菱食品が該当する。事例集 p.18 によれば、SUBARUは2025年4月に「物流本部」を新設し、その下に物流企画管理部・完成車物流部・生産部品物流部の3部体制を構築した。ダイキン工業も1984年の物流本部創設以来、現在は3部体制を維持している(事例集 p.22)。物流機能が複数部門に分散していた企業が、CLO設置と同時に組織を集約するパターンである。

既存組織の権限拡張型

日本アクセス・ダイキン工業に見られる。事例集 p.30 によれば、日本アクセスは2007年から段階的にロジスティクス事業を強化してきた延長として、2024年7月にロジスティクス管掌をそのままCLOへ移行した。連続性が重視される設計である。

CLO+物流部長の二人三脚型

梅の花グループの事例集 p.7 では、CLOを担う取締役(製造・物流・購買管掌)と、物流部部長が「全体視点×実行力」で役割分担する体制が描かれている。中堅規模企業の現実的な解として参考になる。

戦略立案部隊と戦術実行部隊の分離型

日清食品の事例集 p.26 では、戦略立案を担うサプライチェーン本部と、戦術実行を担うロジスティクス部・需給管理部が明確に分離されている。SUBARUでも企画立案(物流企画管理部)と運営(協力会社・機能子会社)を分離している。ガバナンス重視のアプローチである。

これら4類型は、国交省提言が示した「CLOチーム4類型の人材」(オペレーション精通/事業戦略/技術/ガバナンス)と対応する。組織を作るだけでなく、各機能を担う人材を揃えてこそ機能する点が、両資料から導かれる共通の結論である。

横断視点③ — 物流DXの「まずは可視化から」

経産省事例集を通読すると、CLOの最初の仕事は「可視化」であるという一貫したメッセージが浮かび上がる。

企業規模の観点から高度なシステム導入が難しい場合でも、改革は可能であると考えている。重要なのは「まずは可視化から」を合言葉に、Excel等の自社で実行可能な手段で最低限のデータを集め、事実に基づく改善サイクルを回すことである。(梅の花グループ、経産省事例集 p.8)

上記の梅の花グループの事例は、中堅企業でも実行できる出発点として示唆に富む。サンゲツの事例(事例集 p.10)も同方向で、「可視化が取組の起点」「見える化が改善の第一歩」と新任CLOへのメッセージを残している。

三菱食品の事例集 p.23 には、「可視化することで、人間の感覚では気づかなかったことをデータが教えてくれる」というSCM統括の言葉も記録されている。可視化はCLOの「権限の発動」のための判断材料を生むという視点である。

J-オイルミルズの事例集 p.16 はもう一歩踏み込み、「物流ネットワークの実態把握は、一朝一夕には進みません。物流会社と情報を共有し、用語や前提条件を確認し、目線を合わせながら進めることが、改善を進める土台となります」と新任CLOに助言する。可視化は単なるデータ収集ではなく、社内外で「共通の認識を作る」プロセスである。

横断視点④ — 業界連携・社外との「対話」

CLOの責任が個社内に閉じないことは、経産省事例集を通じて繰り返し示される。

最も強いメッセージはJ-オイルミルズの事例(事例集 p.16-17)にある。同事例の記述によれば、植物油業界のローリー物流は、業界内で車両を共用して運用される面があり、混載や帰り荷確保といった一般的な物流効率化の手法が適用しにくい。同社は業界団体や農林水産省等と継続的に協議し、社会全体での対応策を検討しているとされる。「個社単独の取組だけでは解決が難しい構造的な課題」をCLOがリードする姿である。

梅の花グループでは、3PL事業者と毎週30分の定例会を設定し、「梅の花グループ側の効率化にとどまらず、物流事業者の稼働率向上などにもつながる、双方にメリットがある改善」を推進している旨が事例集 p.7 に記載されている。取引先との関係を「アウトソース」ではなく「パートナーシップ」として位置付ける姿勢である。

日清食品の事例集 p.26 には、「カップヌードルのカップ調達は、木材調達→抄紙→ラミネート→印刷→成型という複数工程にわたる。物流だけでなく、調達・生産・営業の変革が必要」と記述されている。社外との関係を、サプライチェーン上流まで遡って見直す視点である。

国交省提言の「社外連携・調整」(同提言 p.11)が、これらの事例で具体的に実装されていることが分かる。

9社事例ダイジェスト

以下、各事例の選任背景・主要取組・教訓を圧縮して紹介する。すべて経済産業省『CLO取組事例集』(令和8年2月)に公表された情報の要約・引用であり、CLO Career独自の取材や各社との直接の関与によるものではない。

7-1. 梅の花グループ(事例集 p.5-9)

湯葉・豆腐料理の「梅の花」、寿司・おむすびの「古市庵」など外食・中食を展開(売上高約294億円、従業員626名)。事例集の記述によれば、2019年10月に物流部を新設し、改革リーダーには外食店舗経営や営業改革経験者である吉田氏を抜擢した。2024年11月に取締役(製造・物流・購買管掌)兼 製造部長のポストを設置し、SCM一体化を加速。CLO×物流部長の二人三脚により、店舗配送頻度の週7回→週4回への移行、幹線輸送便の混載化、3PL事業者との週次定例会など、中堅企業に学べる現実的な改革を進めている。

7-2. サンゲツ(事例集 p.9-12)

インテリア商社。同事例集の記述では、安全を土台とする物流オペレーションが特徴とされる。「可視化が取組の起点」とのメッセージを新任CLO向けに残しており、ジャストインタイム物流が強みである一方で、持続可能性の観点からリードタイム見直しが今後必要になる可能性も示唆。マンパワー依存からの脱却として、可視化を経て自動化投資の判断につなげる方針が描かれている。

7-3. J-オイルミルズ(事例集 p.13-16)

食用油メーカー。事例集によれば、ローリー物流という業界固有の構造課題(共同配送が困難、ドライバー依存度の高さ)を抱え、業界団体・農林水産省等と継続的に協議している。「対話」をキーワードに、社内外の関係者との土台作りを進める。新任CLOへのメッセージは「自社の物流の実態把握と実務理解から始めましょう」である。

7-4. SUBARU(事例集 p.17-20)

中島飛行機をルーツに持つ自動車・航空宇宙メーカー(売上高約4兆6,858億円)。事例集の記述によれば、各部門に分散していた物流機能を集約した「物流本部」を2025年4月に新設し、CLOを法令義務化の1年前に先行設置した。新任CLOへのメッセージは「素人目線で見た新しい気付きを大事にする」とされ、物流の現場経験がない立場からCLOに就任した経緯を活かす姿勢が特徴的である。

7-5. ダイキン工業(事例集 p.21-24)

空調機器のグローバルメーカー(売上高約4兆7,523億円、海外売上高比率8割超)。事例集の記述では、1984年の物流本部創設以来、10年以上前から物流担当役員を設置、SCM部とSCM担当役員も設けてきた。改正法を契機として、既存のSCM管掌役員がCLOに就任。物流統括管理者を責任者、物流本部を事務局とする「対策委員会」を設置し、空調以外の事業も含めた全部署で物流改革を実行している、と紹介されている。

7-6. 日清食品(事例集 p.25-28)

即席麺を中心とする総合食品メーカー。事例集によれば、2015年頃に開始された社内構造改革の延長として、2019年に事業統括本部、2022年にWell-being推進部、その後CLOポストが設置された。長期的視点とサプライチェーン横断の職務権限が必要との考えから設置に至った経緯が記述されている。戦略立案部隊と戦術実行部隊の明確な分離が組織設計の特徴である。

7-7. 日本アクセス(事例集 p.29-32)

雪印グループ卸5社の合併を機に1993年誕生、全国に約500カ所の物流拠点・約7,500台/日の配送ネットワークを保有する食品総合卸(売上高約2兆4,188億円)。事例集の記述では、以前からロジスティクス管掌を設置していた延長として、政府のCLO設置発表時に「業務内容がロジスティクス管掌と相違ない」ことを確認し、義務化期間を待たず2024年7月にCLO設置を対外公表したとされる。

7-8. 三菱食品(事例集 p.33-36)

1925年設立の大手総合食品商社(売上高約2兆1,208億円)。事例集によれば、2018年頃からCLOに資する機能が存在し、2019年4月にSCM統括を新設、2025年1月にCLO設置を対外公表した。「物流はコストセンターではなく、成長領域の一つ」として位置付ける経営判断と、トップダウンによる可視化アプローチが特徴として記述されている。

7-9. アルペン(特別編・事例集 p.37-40)

スポーツ用品のSPA小売(約400店舗)。事例集には「アルペンは現時点では特定荷主に該当していないが、執行役員 物流本部長 兼 サプライチェーン・ロジスティクス部長の濱中龍一氏が、実質的な推進役を担っている」と記述されている。法的義務がなくとも、物流を戦略機能として位置づける企業の事例として収録された意義は大きい。

新任CLOへのメッセージ集約 — 9人のリーダーから学ぶ

経産省事例集の各事例には「新任CLOへ向けたメッセージ」が掲載されており、業界・規模を超えた共通テーマが浮かび上がる。同事例集の記述から、以下の5つのテーマに整理できる。

  • 「まずは可視化から」──梅の花・サンゲツ・三菱食品など、複数社が冒頭に置く原則。
  • 「素人目線で見た新しい気付き」──SUBARUの新任CLOが、固定観念を持たない素人質問の重要性を語る。
  • 「対話により取組を加速する」──J-オイルミルズが、社内外関係者との対話による土台作りを強調。
  • 「物流をコストセンターから価値創造の起点へ」──三菱食品の「物流は成長領域」、日清食品の「Well-beingの実現」など共通方向性。
  • 「データに基づき投資判断」──サンゲツが、自動化投資の前提として可視化と費用対効果検証を強調。

これらは独立したテーマではなく、互いに繋がっている。可視化(テーマ1)が判断材料を生み、それが対話(テーマ3)の土台となり、データに基づく投資判断(テーマ5)を経て、物流を価値創造の起点(テーマ4)へと押し上げる。素人目線(テーマ2)は、こうした一連のプロセスを既存の思考枠から解放するキッカケである。

国交省提言が描く「ゼネラリストとしてのCLO」像が、これら実践事例の中で具体化されていることが分かる。

自社CLO設置に向けた5つのアクション

姉妹記事「改正物流効率化法とCLO選任義務 完全ガイド」(規範編)が示した「経営層への5つの問い」と、本稿の事例分析を統合すると、自社が次に検討すべき具体的アクションは以下に集約できる。

  1. ①自社のサプライチェーンと物流フローを可視化する──まずExcelレベルでも構わない。一次データを揃え、社内で共通認識を作る土台を整える。
  2. ②CLO設置のタイミング・経緯パターン(A/B/C)を選ぶ──法施行契機型、先行設置型、構造改革延長型のどれを取るかで、CLOの権限設計と発信メッセージが変わる。
  3. ③CLOチーム・組織体制を4類型から設計する──物流本部新設・既存組織拡張・CLO+物流部長分担・戦略/戦術分離のいずれが自社に適合するか検討。
  4. ④業界連携・社外対話の戦略を立てる──個社で解決できない業界構造課題(ローリー物流のような共有性の高い領域など)には、業界団体・行政を含む対話の継続が前提となる。
  5. ⑤CLOのKPI・評価軸を経営戦略に組み込む──物流コスト管理だけでなく、企業価値向上・社会的課題対応の指標を含めることで、三菱食品が示した「CLOの進化」を促す。

これらは順番に進めるべきステップではなく、並行して走らせる5本の柱と捉えるのが現実的である。

関連リソースと相談導線

本稿は経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』(令和8年2月)の要約・解説である。原典PDFは経産省ウェブサイトから無償でダウンロード可能であり、新任CLO・CLO選任を検討中の経営層には原典との併読を推奨する。

姉妹記事「改正物流効率化法とCLO選任義務 完全ガイド」(規範編)では、本稿の事例分析の前提となる法令要件・国交省提言の解説を掲載している。CLO Careerは、CLO招聘・育成・業務委託CLO/顧問契約まで一貫したエグゼクティブ・プラクティスを提供しており、経歴のコンフィデンシャルな登録・企業からのご相談は、守秘契約のもとで受け付けている。

References

  1. 経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』令和8年2月(全46ページ) https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
  2. 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』令和8年2月 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001992615.pdf
  3. 物資の流通の効率化に関する法律(令和8年4月施行版)
  4. 関連姉妹記事「改正物流効率化法とCLO選任義務 完全ガイド」(/topics/cloact)