改正物流効率化法が令和8(2026)年4月に全面施行され、年度の取扱貨物が9万トン以上の「特定荷主」にはCLO(物流統括管理者)の選任が義務付けられる。ただし、国土交通省が令和8年2月に公表した提言『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』が描くCLO像は、単なる法令対応の管理職を大きく超える。経営戦略の視点から物流全体を統括し、企業価値の向上と社会的課題の解決にコミットする「経営幹部」である。本稿では、法令の要件と提言が示すCLO像を対照しながら、特定荷主の経営層・人事責任者・SCM部門長が今後3〜12か月で問われる実践を整理する。
なぜ今CLOか — 2026年4月施行の経営課題
改正された「物資の流通の効率化に関する法律」は、令和8年4月に全面施行される。これまでの物流政策が「効率化と高度化」を中心としてきたのに対し、改正法は荷主に対し、トラックドライバーへの負荷低減、サプライチェーンの持続可能性確保といった社会的責任への直接的な関与を求めている。
立法の背景には、いわゆる物流2024年問題を端緒とする構造的なドライバー不足、災害時の物資供給リスク、地球温暖化対策における物流由来CO₂排出への対応、そして商慣習に深く根付いた非効率の解消がある。これらはいずれも、物流部門単独の改善で解決する課題ではない。企業活動全体やサプライチェーン全域を、ロジスティクスの観点から再設計しなければ対処できない問題である。
改正法はそのため、すべての荷主に「積載効率の向上等」「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」の3つの努力義務を課す一方で、一定規模以上の荷主(特定荷主)には経営幹部からのCLO選任を義務付けるという二層構造を採用した。法令上の最低基準と、提言が描く経営幹部としてのCLO像のあいだには、各社の経営判断で埋めるべき幅がある。本稿で繰り返し意識しておきたいのは、この点である。
「特定荷主」とは — 9万トン基準と3つの努力義務
改正法では、年度の取扱貨物の重量が9万トン以上の荷主を「特定荷主」、所定の連鎖化事業を行う者を「特定連鎖化事業者」として指定する。指定された事業者には、努力義務にとどまらない複数の義務が課される。
全荷主に課される3つの努力義務
改正法は、発荷主・着荷主それぞれの立場に応じて、以下の3つの取り組みを努力義務として規定する。特定荷主は中長期計画と定期報告のなかで、これらをKPIとして管理することが求められる。
- 積載効率の向上等──輸送機材の積載率を高めるための共同輸配送、車格の見直し、リードタイム最適化など。
- 荷待ち時間の短縮──予約システム導入、入出庫スロットの設計、書類授受の電子化により、ドライバーの待機時間を圧縮する。
- 荷役等時間の短縮──パレット化・標準化、自動化機器・ロボティクスの導入、商品設計段階からの取り扱い性への配慮など。
これら3つは独立した取り組みではなく、相互に影響する。パレット標準化(荷役時間短縮)が進めば、結果的に積載効率にも波及する。改正法は事業者に対し、3つを一体として捉えた中長期計画の策定と、その進捗の定期報告を求めている。実施が不十分な場合、国による報告徴収・命令、悪質なケースでは事業者名の公表まで想定されている。
CLO選任の法的要件 — 「管理的地位」とは誰か
改正法における「物流統括管理者」の選任要件は、文言上は「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」とされる。実務的には、取締役・執行役員クラスの経営幹部を充てることが想定されている。
「物流統括管理者」と「CLO」は同じか
両者は重なる部分が大きいが、完全に同じではない。
- 法令上の「物流統括管理者」──3つの努力義務(積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役時間の短縮)の遂行を統括管理する責任を負う。
- CLO(Chief Logistics Officer)──JIS Z 0111 で定義されるロジスティクス、すなわち「需要と供給との適正化を図る戦略的な経営管理」全体の最高責任者。
国交省の提言は両者を一体のものとして「物流統括管理者(CLO)」と総称しているが、責任範囲には差がある。CLOの方が広く、企業価値の向上や社会的課題への対応までを含む。逆に言えば、法令上の最低限を満たすだけでは、提言が描くCLOの姿には届かない。
「物流統括管理者」と「CLO」の相違は、責任の対象が、法令で定める範囲(積載効率の向上等、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮)か、物流全体の最適化か、という点にある。両者は経営幹部として配置される点、社内外の連携・調整を担う点で共通している。(国交省提言 p.7)
CLOのミッションと責任の4分野
提言は、CLOのミッションを次のように定義している。
経営戦略の視点から物流を統括管理し、物流全体の最適化を図ることで企業価値の向上と社会的課題の解決に貢献する。(国交省提言 p.9)
このミッションを果たすために、CLOが負う責任は4つの分野にわたる(提言 p.10)。
- ①物資の流通の効率化に関する法律への対応──中長期計画の作成、努力義務の遂行、商慣習の見直し、取引先・消費者の理解形成。サプライチェーンの持続可能性に向けた社内外の合意形成までを含む。
- ②物流全体の最適化──包装・輸送・保管・荷役・流通加工・情報管理の各機能を統合し、関係する社内部門・社外事業者と連携。労働力確保、環境保全、防災・危機管理まで責任を負う。
- ③物流を通じた企業価値の向上──コスト削減ではなく売上拡大の視点で、財務面の収益性改善や、ブランド価値創出・顧客満足度向上を通じた非財務面の企業価値向上を志向する。
- ④社会的課題への対応──ドライバー不足、地球温暖化対策、安全対策などへの対応を通じた、企業のレピュテーション向上。
②と③の違いは見落とされやすい。「全体最適」は内部効率の側面が強いが、「企業価値の向上」は外向きの価値創出を意味する。物流を「コストセンター」ではなく「価値創造の起点」として位置付けるかどうかが、CLOを置く意味の核心にある。
CLOの役割5項目 — 実務でやるべきこと
提言は、責任を果たすための役割を5つに整理している(p.11)。これらは「物流部長が部下を統括する」業務ではない。全社横断・部門間トレードオフ・社外調整を含む、より高度な統括管理である。
- ①計画・実行の統括管理──中長期計画と定期報告の作成、運営方針・管理体制の整備、関連法令(トラック適正化二法・取適法)への対応。
- ②社内連携・調整──開発・生産・流通・販売・調達・在庫管理・情報システム・財務・法務・人事との折衝。特にトレードオフ案件の優先順位付け。
- ③社外連携・調整──発着荷主・取引先との運送条件合意、同業他社との共同輸配送、3PL・物流スタートアップとの連携。
- ④ハード・ソフト両面の事業推進──情報処理システム、施設・設備、DX、標準化(パレット・荷姿・伝票・データ)、業務共同化に必要な制度設計。
- ⑤体制構築・意識啓発・人材マネジメント──組織体制の構築、従業者の意識向上、人材確保・育成。ドライバーに対する不当要求の防止講習なども含む。
実務で最も難易度が高いのは②と③である。「自社のリードタイムを延ばす」という意思決定は、営業部門の販売目標と物流部門の効率化目標の利害を分かつ。CLOはこの板挟みのなかで、経営視点から優先順位を決め、社内外を説得しなければならない。役職としての権限と、経営層からの明示的なバックアップがなければ、提言が描く役割は機能しない。
求められる知識・知見7領域 — ゼネラリストであれ
提言は、CLOに求められる知識・知見を7領域に整理している(p.12-13)。重要なのは、CLO自身がこれら全てを備えている必要はないという点である。
- ①経営戦略としての物流(必須)──経営計画、収支損益管理、ビジネスモデル、財務、SCM、ロジスティクスKPI、ネットワーク設計、データ分析。
- ②パートナーシップ──社内各部門との関係性、社外関係者(取引先・物流事業者・行政・大学等)との連携・交渉。
- ③サステナビリティ──ESG、環境政策、SDGs、自社サステナビリティ方針との整合。
- ④組織・人材──採用・育成、人事評価、組織設計。
- ⑤デジタル技術──IoT、ロボティクス、AIなど物流DXに関する基礎的な知見。
- ⑥法務・法制度──物流効率化法、貨物自動車運送事業法、取適法など物流関連法規。
- ⑦グローバル──海外輸出入、グローバルサプライチェーン戦略、海外拠点運営。
物流統括管理者(CLO)自身がすべてを備えている必要はなく、物流のスペシャリストが関係部門と密に連携する、又は物流を専門としない者でも組織体制の中で人材の協力を得る等して補完しつつ対応していくことが適切と考えられます。(国交省提言 p.12)
この一文は、CLO登用の現実を象徴している。理想を求めすぎると候補者は0人になる。むしろ「ゼネラリストとしての判断力」と「経営層の語彙」を持つ人物を据え、専門領域はチームで補完する設計が現実的である。
CLOを支えるチームと社内外の連携体制
CLOが単独で機能することは想定されていない。提言は、CLOを支えるチーム体制と、社内・社外それぞれの連携先を具体的に列挙している(p.14-15)。
CLOチームに必要な4類型の人材
- ①オペレーション精通人材──運送委託や受渡しといった具体的な物流オペレーションを企画できる実務家。
- ②事業戦略・業務企画人材──物流業務を自社事業戦略の中で位置付け、サプライチェーン全体での効率化を企画できる人材。
- ③物流関連技術人材──情報システム・サイバーセキュリティ、DX(IoT・ロボティクス・AI)に精通した人材。
- ④ガバナンス・コンプライアンス人材──計画・事業に関するコーポレートガバナンスや法務に精通した人材。
連携すべき社外関係者
- 取引先──発荷主は販売先・輸送先、着荷主は調達元との運送条件合意。
- 同業他社──パレット標準化、共同輸配送による業界レベルの効率化。
- 3PL・物流事業者・テック系企業──単なるアウトソーシングではなく、荷主視点のコンサルティング・情報提供を得る関係。物流スタートアップ・SIerとの連携も含む。
- 異業種──他品目混載、貨客混載など業界を跨ぐ取り組みのパートナー。
キャリアパス3類型と育成5ステップ
CLO候補となる人材の確保には、提言が示す3つのキャリアパスがある(p.16)。
- ①物流スペシャリスト型──現場オペレーションから物流関連部門の管理職を経てCLOに就く。深い物流経験が強み。
- ②他部門経験のゼネラリスト型──開発・生産・販売・調達・情報システム・財務・法務・人事などを経験した後、経営層となりCLOに就く。幅広い視点が強み。
- ③外部人材登用型──他社のCLO経験者、または物流事業者出身者を招聘する形態。即戦力としての登用が可能。
実務的には、これら3類型に加えてもうひとつの選択肢がある。社外CLO(業務委託)や顧問という形で、正社員雇用ではなくプロジェクトベースで関与する形態である。社内に適任者がおらず、育成までの時間も足りない企業にとって、移行期の現実的なオプションになる。
育成の5ステップ
- ①期待役割の設定──自社経営課題に即した、CLOに求める知識・知見・経験を明確化する。
- ②育成方針の設定──候補者の整理、選定方法(社内公募・指名・社外採用)、キャリアパス設計。
- ③プログラムの内容・習得方法──社内プログラムに加え、JILSロジスティクス経営士、東京大学トランスポートイノベーション研究センターのSCMリカレント教育などの外部プログラムを活用。
- ④期待役割の社内発信──CLOの活躍像を社内(場合により社外)に発信し、候補者のキャリア意欲を喚起。
- ⑤キャリアプランの設計・評価──ジョブローテーション、定期評価、教育研修の継続。
提言は、CLOの地位・待遇について「他のCxOと同等の責任を担う役職であるという前提をもとに、事業者内の地位及び待遇に差が生じないようにすべきである」と明示する(p.17)。形式的に役職を作っても、人事制度上の格付けや報酬体系が他のCxOと乖離していれば、優秀な人材は集まらず、機能もしない。
先行5社の事例 — 何が機能したか
国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』には、参考資料としてCLOの先行設置・運用に取り組む5社の事例が掲載されている(同提言 p.21-25)。以下は、同提言に公表された情報の要約・引用であり、CLO Careerが各社と直接の関与を持つことを示すものではない。各社の選任背景・組織設計・主な取り組みを、提言の記述に沿って要点で紹介する。
日野自動車 — CxO制とグループ物流会社社長兼任
国交省提言 p.21 の記述によれば、同社は2024年5月にCxO制を導入し、CLOを設置している。CLOはグループ物流会社「日野グローバルロジスティクス」の代表取締役社長を兼任すると紹介されている。当日オーダーの締め時間を17時から16時に短縮した取り組みでは、販売会社との合意形成を「トラックを待たせない」方針で進めたとされ、物流子会社社長単独では合意形成が難しい意思決定が、CLOという立場により可能になった経緯が記録されている。
SUBARU — 物流本部新設+CLO先行設置
提言 p.22 の記述では、同社は2024年8月に各部門に分散していた物流組織を統合する「物流本部」を新設し、本部長がCLOを兼任しているとされる。電動化など自動車変革期に対応するため、部分最適から全体最適への転換を目指した経緯が示されている。他社製造業の物流専門家、物流事業者のオペレーション経験者をキャリア採用で補強している点も提言に記載されている。
三菱食品 — 法施行前からの先行対応
提言 p.23 によれば、同社は2019年にSCM統括役職を創設、2021年頃に専任化、2024年6月にCLOを設置したとされる。食品卸という業界特性から、可視化アプローチに重点を置く取り組みが紹介されている。提言で引用される「CLOの進化の3方向」(コスト管理から企業価値向上へ、3価値の同時実現、個社最適からサプライチェーン全体最適へ)は、三菱食品CLOの示唆として整理されている。
花王 — 3階建てモニタリング体制
提言 p.24 の記述によれば、同社は運送事業の経験者を外部招聘してCLOに据えたとされる。取組体制は「①モニタリング」「②3つの判断基準の改善とその実効性確保」「③特定荷主としての義務遂行」の3階建て構造として紹介されている。工場・物流拠点で予約システムを導入し、発荷主・着荷主の両側面でモニタリングを実施している点も提言に明記されている。
アース製薬 — 中堅メーカーの取り組み
提言 p.25 では、5社目の事例として中堅規模メーカーの取り組みも収録されている。詳細は提言原典を参照されたい。中堅・中小規模であっても、特定荷主の閾値(年度取扱貨物9万トン)を超える企業は同等の義務を負う点に留意が必要である。
自社が次に取るべき1歩 — 経営層への5つの問い
提言を読み終えた経営層・人事責任者・SCM部門長が、次に検討すべき問いは以下の5つに集約できる。
- 自社は特定荷主に該当するか──年度取扱貨物が9万トン以上か。所属事業会社単位、グループ全体での集計はどうか。法施行までに監査ベースで把握する。
- CLO候補者は社内に存在するか──提言の3類型のうち、どのキャリアパスから登用するか。「いない」と判定された場合、内部育成にかかる時間軸を見積もる。
- 登用形態をどう設計するか──正社員役員としての登用、外部招聘、業務委託CLO・顧問契約のいずれを取るか。短期は外部、中長期は内部育成という二段構えも有効である。
- 支えるチーム4類型は揃っているか──オペレーション精通/事業戦略/技術/ガバナンスの4類型のうち、不足する人材をどう補うか。
- 権限・KPI・レポートラインをどう設計するか──CLOの意思決定権限の範囲、評価指標、誰に報告するか。他CxOとの上下関係。これらが曖昧なまま役職だけ作ると、提言が描く役割は形骸化する。
CLO Careerでは、CLOおよびその直下層に特化したエグゼクティブ・プラクティスとして、招聘・育成・社外CLO/顧問の業務委託まで一貫して支援している。経歴のコンフィデンシャルな登録は候補者の方向け、企業のご相談は企業向けページから守秘契約のもとで対応している。
References
- 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』令和8年2月(物流統括管理者(CLO)のあるべき姿に関するワークショップ提言) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001992615.pdf
- 経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』令和8年2月 https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
- JIS Z 0111:2006「物流用語」
- 物資の流通の効率化に関する法律(令和8年4月施行版)
- 国土交通省『高度物流人材の育成・確保に関するワークショップ』提言「物流起点の価値創造を実現する人材の育成に向けて」令和5年3月



