改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)は2026年4月に全面施行され、年度取扱貨物9万トン以上の事業者は「特定荷主」または「特定連鎖化事業者」として指定される。指定通知を受けた事業者は、物流統括管理者(CLO)の選任、中長期計画書の作成、定期報告書の運用といった一連の実務を、所定の様式と期限で行う義務を負う。本稿では、経済産業省『CLO取組事例集』および国土交通省提言、ならびに物流効率化法施行令・届出省令の規定に基づき、特定荷主の判定方法から実務カレンダーまでを順を追って整理する。
「特定荷主」「特定連鎖化事業者」とは
改正物流効率化法は、すべての荷主に対し「積載効率の向上等」「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」の3つを努力義務として課す。さらに、年度の取扱貨物が一定の閾値を超える事業者を「特定荷主」(または特定連鎖化事業者)として指定し、努力義務を超える複数の実体的義務を課す二層構造である。
- 特定荷主──自らの事業に必要な貨物の運送を他社に委託する事業者のうち、年度取扱貨物重量が政令で定める閾値(9万トン)以上のもの。
- 特定連鎖化事業者──コンビニやチェーン外食など、連鎖化事業(フランチャイズ等)を営む事業者のうち、別途定める閾値以上の取扱量を持つもの。
特定荷主・特定連鎖化事業者の双方に「物流統括管理者(CLO)の選任義務」「中長期計画書の作成・提出」「定期報告書の作成・提出」が一律で課される。経産省『CLO取組事例集』 p.5 に詳細が整理されている。
自社の判定方法 — 年度取扱貨物9万トンの計算
判定にあたっては、自社が「発荷主」「着荷主」のどちらの立場で取り扱う貨物量なのかを区別する必要がある。同法では、生産・販売の主体的立場で運送を他社に委託する場合に「発荷主」、調達・受領の主体的立場で運送を他社に委託する場合に「着荷主」として位置付ける。
実務的には、以下のステップで判定する。
- ①事業所単位ではなく事業者単位で集計──工場・支店ごとではなく、法人格単位で取扱貨物量を合算する。
- ②発荷主/着荷主のそれぞれで算定──両方で閾値を超える場合は「特定第一種荷主」「特定第二種荷主」の重複指定もあり得る。
- ③前年度実績で判定──国土交通省・経済産業省・農林水産省は、前年度の取扱量実績を基準として翌年度の指定を行う。
- ④グループ企業の取扱は法人ごとに──親会社・子会社・関連会社は別々に集計。物流子会社が連鎖化事業を営む場合は別途の判定が必要。
自社が9万トンを超えるか不明な場合は、まず物流部門・SCM部門に前年度の出荷/入荷データを依頼し、概算を出すことから始める。グレーゾーンの事業者は所管省庁(経産省・国交省・農水省)への事前照会も検討に値する。
特定第一種荷主・特定第二種荷主の区分
経産省『CLO取組事例集』 p.4 によれば、特定荷主は「特定第一種荷主」と「特定第二種荷主」に区分される。
- 特定第一種荷主──発荷主の立場で年度取扱貨物が閾値を超える事業者。製造業・卸売業に多い。
- 特定第二種荷主──着荷主の立場で年度取扱貨物が閾値を超える事業者。小売業・外食チェーンに多い。
両方で閾値を超える場合は両方の区分で指定を受ける。届出省令第7条は「複数の指定を受けた事業者は、それぞれの区分での物流統括管理者として、同じ者を選任する」ことを定めており、CLOを区分ごとに別人とすることは認められない。
指定通知後にやること — 5つの必須届出
所管大臣から「特定荷主」の指定通知を受けた事業者は、以下の届出・計画書類を段階的に提出する必要がある。
- ①物流統括管理者選任・解任届出書(様式第4)──指定通知後すみやかに、遅くとも中長期計画・定期報告を提出するまでを目安に提出。
- ②中長期計画書──改正物流効率化法に基づく事業運営方針と管理体制の整備計画。所管大臣に届出。
- ③定期報告書──毎年度、計画の進捗および3つの判断基準(積載効率向上等・荷待ち短縮・荷役短縮)に関する実績を所管大臣に報告。
- ④物流統括管理者の変更届──CLOの交代・解任が発生した場合、すみやかに様式第4にて変更届を提出。
- ⑤所管大臣からの報告徴収への対応──勧告・命令・公表の事前ステップとしての報告徴収。要求された場合は期限内に回答。
提出先は「指定を行った荷主事業所管大臣等のすべて」とされる(経産省事例集 p.5)。複数省庁にまたがる事業者(製造業+小売業を兼業する企業など)は、それぞれの主管大臣に重複提出が必要となる。
物流統括管理者選任届出書(様式第4)の書き方
様式第4は、物流統括管理者の選任・解任を所管大臣に届け出るための公式書類である。記載すべき主要項目は以下のとおり。
- 事業者名・本店所在地・法人番号──登記簿どおりの正式名称で記載。
- 特定荷主等の指定通知の年月日・指定番号──通知書に記載されている内容を転記。
- 物流統括管理者の氏名・役職・所属──「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位」を満たす役員等。
- 選任年月日・解任年月日(変更時)──事業の運営に当たる時点が選任年月日となる。
- 代表者の押印(または電子署名)──代表取締役名義での提出が原則。
CLOに就任する個人は、法令上「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位」を満たす必要がある(物流効率化法第47条第2項)。実務上は取締役・執行役員クラスの経営幹部を充てる前提で運用される。物流部長や物流子会社社長単独では要件を満たさない可能性があるため、選任前に必ず社内法務との照合が必要である。
中長期計画書の作成方法
中長期計画書は、改正物流効率化法に基づく事業者の自主改善計画である。届出省令第8条が定める統括管理業務として、以下の項目を盛り込む必要がある(経産省事例集 p.5 に列挙)。
- 計画期間と全社の運営方針──通常は5か年計画。経営計画との整合を取る。
- 事業の管理体制──CLO・物流本部・関連部門のレポートライン、意思決定プロセス、KPI管理者。
- 3つの判断基準ごとの目標値──積載効率向上等・荷待ち時間短縮・荷役等時間短縮を、それぞれ定量的に設定。
- 関係各部門間の連携体制──開発・生産・流通・販売・調達・在庫管理等の物流関連部門の連携設計。
- 情報処理システムや器具・設備の標準化計画──予約システム・パレット・荷姿・伝票・データの標準化方針。
- 取引先・関係者との連携・調整方針──発荷主・着荷主・物流事業者との合意形成プロセス。
国土交通省提言『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』 p.10 は、これら計画項目を「単なる物流改善計画ではなく、経営戦略と連動した中長期視点の事業計画として策定する」よう求めている。物流コスト削減のみに焦点を絞った計画では、提言が描く水準には届かない。
定期報告書の運用 — KPI 項目と頻度
定期報告書は、中長期計画の進捗を所管大臣に毎年度報告する書類である。報告対象となる主要KPIは、3つの判断基準に紐づく定量指標である。
- 積載効率の向上等──車両積載率(重量ベース・容積ベース)、共同輸配送の実施率、車格適正化率。
- 荷待ち時間の短縮──ドライバー1人あたり平均待機時間、予約システム導入率、入出庫スロット稼働率。
- 荷役等時間の短縮──パレット化率、自動化機器導入率、標準化荷姿の採用率、ドライバー1人あたり荷役時間。
報告書には実績値・前年度比・計画値からの乖離・改善取り組み内容を記載する。実施状況が不十分と判定された場合、所管大臣は次節の段階的措置を発動する権限を持つ。
罰則の段階構造(指導→勧告→命令→公表→罰金)
物流効率化法の罰則は段階的構造になっており、いきなり罰金が科されるわけではない。経産省『CLO取組事例集』 p.5 に概要が示されている。
- ①報告徴収・指導──所管大臣が事業者に対し、取組状況の報告を求める。改善余地のある事項について行政指導が行われる。
- ②勧告──改善が見られない場合、所管大臣が文書による勧告を発出する。
- ③命令──勧告に従わない場合、所管大臣が命令を発する。法的拘束力を持つ。
- ④公表──命令にも従わない事業者の名称・違反内容を公表する措置。レピュテーション毀損が大きい。
- ⑤罰金──物流統括管理者を選任しなかった場合は100万円以下の罰金、選任の届出を怠った場合は20万円以下の過料が科される可能性がある。
罰金額そのものは大企業にとって決定的なダメージではないが、④の「公表」段階に至った場合の社会的影響は大きい。取引先からの信頼低下、ESG評価機関による減点、優秀な人材の流出につながり得る。実務的には公表段階に至る前の対応が肝要である。
法令対応カレンダー — 2026〜2027年の実務スケジュール
改正法は2026年4月に全面施行されたため、特定荷主に該当する事業者は以下の時間軸で実務を進めることが想定される。
- 2026年4月〜6月:特定荷主の指定通知──所管大臣から指定通知が順次発出される。前年度実績ベースの判定。
- 2026年6月〜9月:CLO選任・体制整備──様式第4による選任届出書の提出、社内チーム体制の構築、計画策定の準備。
- 2026年10月〜12月:中長期計画書の作成・提出──5か年計画として作成。事業運営方針と3つの判断基準の目標設定を組み込む。
- 2027年4月〜6月:第1回 定期報告書の作成・提出──2026年度の取組実績を集計し、KPI実績値・改善内容を報告。
- 毎年継続:PDCA運用──計画の見直し、3つの判断基準の目標値更新、社内外連携の継続。
CLO Career からの実務支援
本稿で整理した実務は、CLO選任・組織体制構築・中長期計画策定の各局面で社内人材だけでは対応が難しいケースが多い。CLO Career では、CLOおよびその直下層に特化したエグゼクティブ・プラクティスとして、以下の支援を提供している。
- CLO招聘──他社CLO経験者・物流事業者出身者など、即戦力人材の招聘支援。
- 業務委託CLO・顧問契約──正社員役員での登用前の橋渡しとして、社外CLO・顧問人材の派遣。
- CLOチーム構築支援──オペレーション・事業戦略・技術・ガバナンスの4類型人材の手配。
- 中長期計画策定アドバイザリ──国交省提言と整合した戦略文書の作成支援。
経歴のコンフィデンシャルな登録は候補者の方向け、企業のご相談は企業向けページから、いずれも守秘契約のもとで受け付けている。姉妹記事「改正物流効率化法とCLO選任義務 完全ガイド」(/topics/cloact)と「CLO取組事例8社 完全解読」(/topics/clocases)も併せて参照されたい。
References
- 経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』令和8年2月 https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
- 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』令和8年2月 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001992615.pdf
- 物資の流通の効率化に関する法律(令和8年4月施行版)
- 物流効率化法施行令/届出省令(経産省・国交省・農水省 共同所管)
- 関連姉妹記事「改正物流効率化法とCLO選任義務 完全ガイド」(/topics/cloact)
- 関連姉妹記事「CLO取組事例8社 完全解読」(/topics/clocases)



