物流を自社で持つ(make)か、外部に委ねる(buy)か。EC事業者向けの記事では「出荷が月数十件を超えたら外注を検討」といったライトな閾値で語られがちだが、荷主企業の経営層が向き合うべきmake-or-buyは、その水準の判断ではない。問われているのは、物流を自社の競争優位の源泉とみなすのか、それともノンコア機能として最良の外部パートナーに任せるのか、という戦略の選択である。本稿は、3PL/2PL/4PLの階層整理から始め、物流を内製化して投資する企業と委託に振る企業の判断軸を一次資料で対比し、最後に「内製判断の前提=物流を統括できる人材が社内にいるか」という採用論点と、委託先を統治する責任分界までを、経営アジェンダとして体系化する。
物流のmake-or-buyが経営判断である理由
make-or-buyは、もともと製造業が部品を内製するか購買するかを決める古典的な意思決定フレームである。物流に当てはめると、「輸送・保管・荷役・流通加工・情報処理という物流機能を、自社の資産と人員で持つか、外部事業者に委託するか」という問いになる。この判断を現場任せにすると、目先のコストや倉庫の手狭さといった戦術論に矮小化されやすい。だが本質は、自社のサプライチェーンが顧客価値や差別化にどれだけ直結しているか、という戦略の問題である。
経営判断である理由は3つある。第一に、物流は固定資産(倉庫・車両・マテハン機器)と長期の人材投資を伴うため、内製化は数十億〜数千億円規模の設備投資判断になり得る。第二に、物流2024年問題に象徴される構造的なドライバー不足と運賃上昇のなかで、輸送能力の確保そのものが事業継続性(BCP)に直結する。第三に、2026年4月から特定荷主にCLO(物流統括管理者)の選任が義務化され、物流が役員アジェンダに格上げされたことで、make-or-buyの意思決定主体も経営層へと移った。
国土交通省の資料によれば、トラックドライバーは全産業平均と比べて年間労働時間が約2割長く、年間所得は約1割低い。この構造が担い手不足の根因であり、2024年4月からの時間外労働の上限規制(年960時間)と相まって、輸送能力は今後さらに逼迫する見通しである。つまり「外に出せば誰かが運んでくれる」という前提自体が揺らいでいる。make-or-buyは、コスト最適化の問題から、能力(キャパシティ)確保の問題へと性質を変えている。
3PL/2PL/4PLの階層 — 何を外に出すのか
「外注」と一括りにされがちだが、委託の階層によって意味が大きく異なる。make-or-buyを論じる前に、何をどこまで外に出すのかを階層で整理しておく必要がある。
国土交通省は3PL(third party logistics)を、「荷主企業に代わって、最も効率的な物流戦略の企画立案や物流システムの構築の提案を行い、かつ、それを包括的に受託し、実行すること」と定義している(国土交通省「3PL事業の総合支援」)。単なる運送や倉庫保管の委託(個別業務のアウトソーシング)とは異なり、企画・設計から実行までを包括的に第三者に委ねる点が3PLの本質である。
- 1PL(ファーストパーティ)──荷主自身が自社の物流をすべて担う、いわゆる自社物流。これがmake側の純粋形である。
- 2PL(セカンドパーティ)──運送会社・倉庫会社など、輸送や保管の個別機能を担う事業者に業務を委託する形態。アセット(車両・倉庫)の提供が中心。
- 3PL(サードパーティ)──物流戦略の企画から実行までを包括的に受託する第三者。荷主でも単なる運送事業者でもない立場で物流部門を代行する(国交省定義)。
- 4PL(フォースパーティ)──自らはアセットを持たず、複数の3PLや運送事業者を束ね、荷主のサプライチェーン全体を設計・統括する立場。コンサルティングと実行管理の中間。
make-or-buyの実務では、これらは二者択一ではなくグラデーションで選ばれる。たとえば「幹線輸送は2PLで運送会社に委託、庫内オペレーションと在庫管理は3PLに包括委託、SCM全体の設計は社内に残す」といった機能別の切り分けが一般的だ。問うべきは「全部内製か全部外注か」ではなく、「どの機能を戦略資産として手元に残し、どの機能を外部の専門性に委ねるか」である。
物流を競争優位とみなす企業の内製化(SPA・EC)
物流を競争優位の源泉とみなす企業は、make側に大きく振る。代表格がSPA(製造小売)型のニトリである。ニトリは原材料調達から製造・物流・販売までを自社グループで一貫して手掛ける「製造物流IT小売業」を掲げ、物流子会社のホームロジスティクスを通じて物流機能を内部化してきた。
内製化の規模感は投資額に表れる。日本経済新聞の報道によれば、ニトリホールディングスは2025年2月、川崎市に敷地面積約20万平方メートルの物流倉庫を新設すると発表し、投資額は同社の設備投資として過去最高となる1480億円を見込むとした(2028年10月稼働予定)。賃借していた物流倉庫を自社倉庫に集約し、自社に合わせた設備導入で効率を高め、運送時間・人件費の削減と人手不足への対応を狙う構造である。
なぜここまで内製に振るのか。SPA型企業にとって物流は、商品の調達リードタイム・在庫回転・店舗とECの一体運用を左右する、価格競争力と顧客体験の根幹だからである。物流を外部に委ねれば、コスト構造の透明性も改善スピードも他社と同質化する。逆に物流を握れば、調達から店頭までを自社のオペレーションとして最適化でき、それ自体が模倣困難な競争優位になる。EC事業者が自社フルフィルメントセンターを持つ動機も同根で、配送品質と顧客データを自社の戦略資産として囲い込む発想である。
ただし内製化は、需要変動リスクと固定費を自社で抱え込む選択でもある。物量が読めない事業や、季節波動の大きい事業では、自社倉庫の稼働率が下がった瞬間に固定費が重荷になる。内製化が機能するのは、十分な物量規模と安定した需要、そして物流投資を回収できる事業の継続性が揃っている場合に限られる。
ノンコア化して委託する企業の判断軸
一方、物流を競争優位の中核とはみなさず、ノンコア機能として外部の専門性に委ねる判断も、同じく合理的な経営判断である。問題は「内製と委託のどちらが正しいか」ではなく、「自社の事業特性において、どちらが優位か」を構造的に評価できているかである。
委託(buy)に振る判断軸は、概ね次のように整理できる。
- 戦略的重要度が低い──物流が顧客価値の差別化要因になっておらず、コストと品質の標準的な達成で十分な場合。物流に経営資源を割くより、本業に集中する方が合理的。
- 物量規模・変動が委託向き──自社単独では規模の経済が効かない、あるいは需要変動が大きく固定費を抱えるリスクが高い場合。3PLの共用インフラに乗る方がコスト効率が高い。
- 専門性・技術の外部優位──WMSや自動化、輸配送ネットワークの最適化など、専門事業者の蓄積に自社が追いつけない領域。投資負担も外部に転嫁できる。
- 変動費化したい財務戦略──倉庫・車両を固定資産として持たず、物流費を変動費化してバランスシートを軽くしたい場合。
ただし委託には固有のリスクがある。第一に、コスト構造がブラックボックス化し、委託費の妥当性を自社で検証できなくなること。第二に、物流ノウハウが社内に蓄積されず、いざ内製回帰やパートナー切り替えをしようにも判断能力を失っていること。委託は「物流から手を離すこと」ではなく、「物流を統治する立場に回ること」だと理解できていない企業は、委託先に主導権を握られやすい。コストをどう見るかについては、物流コストを売上高比率と費目構造で構造的に捉える視点が前提になる(/topics/logistics-cost-structure)。
内製回帰の事例 — 自社物流投資の経営判断
近年は、いったん委託に振った物流を内製側に戻す「内製回帰」の動きも見られる。ニトリの自社倉庫集約は、まさに賃借(外部依存)から自社保有への回帰であり、その動機は明快だ。日本経済新聞の報道にあるとおり、賃借倉庫を自社倉庫に集約し、自社に合わせた設備を導入することで効率を高め、運送時間・人件費・人手不足に対応する——つまり、外部に委ねていては実現できない最適化を、自社資産化によって取りに行く判断である。
内製回帰が経営判断として成立する条件は、(1)物流が事業の競争優位に直結していること、(2)内製化に必要な物量規模と需要の安定性があること、(3)投資を回収できる事業継続性が見込めること、(4)そして自社で物流を設計・運営できる人材がいること、の4点である。逆にこのいずれかを欠いたまま「コストが高いから内製に戻す」と判断すると、稼働率の低い自社資産と、回らないオペレーションを抱え込むことになる。
内製化を物流子会社という器で実装する企業も多い。物流機能を100%子会社として保有し、グループの物流を統括させる形態は日本企業特有の構造であり、保有・スピンオフ・統合・売却という選択肢それぞれに固有の論点がある。物流を内部に持つ「器」の設計については、別稿で詳述している(/topics/logistics-subsidiary)。make-or-buyの判断と、その内製機能をどの組織形態で持つかは、連続した経営アジェンダである。
委託で失われる社内ノウハウをどう補完するか
委託(buy)を選んだ企業が直面する最大の落とし穴は、物流ノウハウの空洞化である。実務を3PLに包括委託すると、現場の改善知見・コスト構造の理解・輸配送ネットワークの設計力が、すべて委託先側に蓄積される。荷主側にはオペレーション能力が残らず、委託費の妥当性すら判断できなくなる。これが進むと、make-or-buyの再判断そのものができなくなり、委託先依存が固定化する。
委託しても主導権を失わないために、最低限社内に残すべき機能がある。
- ①物流戦略・設計の機能──ネットワーク設計・在庫配置・拠点戦略といった上流の意思決定は内製で握る。3PLは実行を担うが、設計を委ねると戦略主導権を失う。
- ②コストと品質の評価機能──委託費の構造を分解して妥当性を検証し、SLAの達成度を自社の物差しで測る能力。これがないと委託費は交渉の余地なく上がり続ける。
- ③データの統合・可視化機能──委託先ごとに分断された物流データを自社で統合し、全体最適の意思決定に使える状態に保つ。データを握る側が交渉力を握る。
- ④委託先を統治する人材──複数の委託先を束ね、SLA・コスト・改善を交渉・管理できる物流統括人材。委託は『丸投げ』ではなく『統治』である。
③のデータ統合は、委託先が複数に分かれているほど難度が上がる。委託先ごとに異なるシステム・フォーマットで分断されたデータを統合し、AIで需要予測や配車最適化につなげるには、相応の技術投資と設計が要る。委託先の再編やシステム統合を伴うデータ基盤の構築では、KI StrategyのAI導入支援「AX Boost」のような外部知見を活用し、自社のデータ統治能力を補完する選択肢もある。
内製判断の前提 — 物流を統括できる人材がいるか
make-or-buyの議論で最も見落とされやすく、しかし最も決定的なのが、人材の前提である。内製化(make)も統治的な委託(buy)も、物流を経営の言葉で語り、戦略を設計し、現場と委託先を動かせる人材がいて初めて成立する。この人材が社内に存在しない限り、内製化は『誰も全体を見られない自社物流』を生み、委託は『委託先に主導権を握られた丸投げ』に終わる。
この前提は、2026年4月施行の改正物流効率化法によって制度面からも裏付けられた。物流効率化法の理解促進ポータルサイトによれば、CLO(物流統括管理者)は「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」、すなわち重要な経営判断を行う役員等の経営幹部から選任される必要がある。物流を統括する責任が、現場管理職ではなく経営幹部の職責として制度化されたのである。年間取扱貨物量が一定規模(おおむね9万トン以上)に達する特定荷主には、この選任が義務となる。
ここでmake-or-buyと人材論が交差する。内製化を選ぶなら、自社物流を設計・運営し、数十億〜数千億円の投資判断を経営に説明できるCLO級の人材が要る。統治的な委託を選ぶなら、複数の委託先を束ねてSLAとコストを握る統括人材が要る。いずれの道でも、物流を経営アジェンダとして扱える人材の有無が、make-or-buyの実行可能性を規定する。CLOという役割の定義・要件・改正法対応については別稿で詳述している(/topics/clo)。
実務上、この人材を内部育成で賄えない企業は少なくない。物流を統括できる経営人材は供給が薄く、特定荷主の義務化を契機に需要が一気に高まっている。CLOを直雇用するか、社外CLO・業務委託・コンサルのいずれで補うかという選択肢の整理も、make-or-buyと並ぶ経営判断である(/topics/clo-vs-alternatives)。人事責任者(CHRO)の視点からの物流人材の確保・処遇・リテンション設計についても、別稿で体系化している(/topics/chro-logistics-talent)。KI Strategyのエグゼクティブサーチでは、CLO・物流役員クラスの採用相談と候補者登録を受け付けており、内製判断の前提となる人材を経営アジェンダとして一緒に設計できる。
委託先を統治する責任分界 — 誰がSLA・コストを握るか
委託(buy)を選んだ場合、make-or-buyの成否は『委託の質』ではなく『統治の質』で決まる。同じ3PLに委託していても、主導権を握れている荷主とそうでない荷主では、コストも改善スピードも大きく分かれる。鍵は、荷主と委託先のあいだの責任分界を明確に設計できているかである。
統治の論点を、責任分界の観点で整理する。
- SLAは誰が設計するか──納品リードタイム・誤出荷率・在庫精度などのサービス水準を、荷主が主体的に定義し、達成度を自社で測る。委託先任せにすると評価基準ごと相手の土俵になる。
- コストの可視性を誰が握るか──委託費を費目構造に分解し、何にいくら払っているかを荷主が把握する。ブラックボックス化したコストは交渉の余地を失う。
- 改善のイニシアティブは誰にあるか──継続的なコスト削減・効率化の改善提案を、契約上どちらが主導するかを明確化する。荷主が改善を要求し、評価する立場を保つ。
- データと意思決定を誰が持つか──物流データの所有権と、ネットワーク設計の意思決定権を荷主側に残す。データを委託先に握られると、切り替えコストが跳ね上がり依存が固定化する。
この責任分界を設計・運用できる人材こそ、前節で述べた物流統括人材である。委託は経営の関与を不要にするのではなく、むしろ「自社では実務を持たないが、戦略と統治は握る」という高度な経営機能を要求する。委託先の再編、3PLの切り替え、物流子会社の売却・統合といった構造変更を伴う局面では、デューデリジェンスやPMIの専門性も必要になる。M&AやPMIアドバイザリーの「DD-AX」のような外部知見を組み合わせることで、委託先再編や物流機能の組み替えを経営判断として精緻に進められる。
make-or-buyは一度決めて終わる判断ではない。物量・運賃・人材・規制の環境は動き続け、最適解も移ろう。重要なのは、内製でも委託でも、物流を経営アジェンダとして再判断し続けられる『統治の構造』と『人材』を社内に確保しておくことである。物流をどの組織モデルで持つか、効率化の打ち手をどう選ぶかといった具体策は、共同物流など他社連携の設計(/topics/joint-logistics)とあわせて検討すると、make-or-buyの選択肢はさらに広がる。
References
- 国土交通省「3PL事業の総合支援」 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/butsuryu03340.html
- 国土交通省「物流の2024年問題について」(自動車局/持続可能な物流の実現に向けた検討会 資料) https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf
- 国土交通省「物流効率化法 理解促進ポータルサイト(物流統括管理者(CLO)の選任)」 https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
- 経済産業省「CLO取組事例集 物流改革の実践と成果」 https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
- 日本経済新聞「ニトリ、1500億円で自前倉庫 物流効率化へ過去最大投資」(2025年2月10日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC213L40R20C25A1000000/
- 関連記事「物流子会社の戦略的位置付け|保有・スピンオフ・統合・売却の4選択肢」(/topics/logistics-subsidiary)
- 関連記事「物流コストの内訳と比率|売上高物流コスト比率5.44%をどう読むか」(/topics/logistics-cost-structure)
- 関連記事「CLO 直雇用 vs 社外CLO vs 業務委託 vs コンサル|法令適合性と意思決定フレームワーク」(/topics/clo-vs-alternatives)
- 関連記事「人事責任者(CHRO)のための物流人材確保戦略」(/topics/chro-logistics-talent)



