海外に生産拠点を持ち、原材料を世界から調達し、製品を複数の国へ売る企業にとって、サプライチェーンはすでに国境をまたいで広がっている。経済産業省『海外事業活動基本調査』によれば、日本の製造業の海外生産比率(国内全法人ベース)は27.2%に達している(2023年度実績)。調達・生産・輸送・販売が複数国に分散すれば、それを束ねて全体最適を図る経営機能——グローバルSCM——の巧拙が、コスト・リードタイム・リスク耐性を左右する。本稿は、グローバルSCMとは何か、その構築をどう設計するか、そして国際物流を統括する人材と組織をどう用意するかを、行政・業界団体の一次資料に接地して整理する。

グローバルSCMとは — 国内SCMとの違いを構造で捉える

サプライチェーン・マネジメント(SCM)は、調達・生産・在庫・物流・販売を一連の流れとして捉え、需要と供給の適正化を図る経営活動を指す。近年は、これを個別部門の管理手法ではなく全社の経営アジェンダとして扱う「サプライチェーン経営」という言い方も広がっている。国土交通省の物流統括管理者(CLO)提言も、CLOの責務を『物流の諸機能にとどまらず、需要と供給との適正化を図るという、サプライチェーンマネジメントの視点』で整理しており、物流=輸送・保管に閉じない上位概念としてSCMを位置づけている。

グローバルSCMは、この活動の対象が国境をまたぐ点で国内SCMと質的に異なる。単に距離が長くなるだけではない。為替、関税・通関、各国の規制、地政学リスク、リードタイムの長さと変動、複数の言語・商慣習・時差が、設計変数として一気に増える。国内最適がそのまま国際最適にならないのは、これらの変数が拠点配置・在庫水準・輸送モードの最適解を変えてしまうためだ。

  • 対象範囲──国内SCMは国内の調達・生産・配送が中心。グローバルSCMは海外調達・海外生産・輸出入・海外販売網までを含む。
  • リードタイム──国内は日単位。国際海上輸送は週〜月単位で、変動も大きく、在庫設計の前提が変わる。
  • 規制・制度──国内は概ね単一の法体系。グローバルでは仕向国ごとの通関・規制・基準への同時対応が必要。
  • リスク──為替・地政学・港湾混雑・特定国依存など、国内SCMにない構造的リスクが恒常的に存在する。
  • 統括の難度──複数法人・複数通貨・複数言語にまたがる組織を、本社の方針で束ねる難度が高い。

つまりグローバルSCMの本質は『複数国に分散した供給網を、個社最適・拠点最適ではなく全体最適で設計し直すこと』にある。この『全体最適』という言葉は、国交省CLO提言が繰り返し用いるキーワードでもある。

グローバル物流戦略の全体像 — 調達・生産・輸送・販売を一筆で描く

グローバル物流戦略は、サプライチェーンの上流から下流までを一枚の絵として描くところから始まる。論点は大きく四つの局面に分けられる。

  1. ① 調達(Source)──原材料・部品をどの国・どのサプライヤーから調達するか。単一国・単一社への依存度、第二調達先の有無、現地調達率の引き上げが論点となる。
  2. ② 生産(Make)──どの国でどの製品を作るか。需要地に近い生産(地産地消)か、コスト優位地での集中生産か。近年は関税や物流費の上昇を受けて、たとえば欧州向けを欧州域内生産へ寄せる動きがEV・家電で広がるなど、コスト一辺倒から『関税+輸送+リスク』の総合判断へ軸が移りつつある。製造業の海外生産比率27.2%(経産省)は、この判断の積み重ねの結果だ。
  3. ③ 輸送・在庫(Deliver)──海上・航空・陸上をどう組み合わせ、どこに在庫を置くか。輸送モードのコストとリードタイムのトレードオフ、通関・運賃の設計が中心。
  4. ④ 販売(Sell)──仕向国の販売網・物流網にどう乗せるか。ラストマイル、現地法人の在庫責任、返品物流まで含む。

重要なのは、この四局面を別々の部門が個別最適すると全体は壊れるという点である。たとえば調達を最安の1カ国に集約して単価を5%下げても、その国の港湾ストで生産が3週間止まれば、削ったコストは一瞬で吹き飛ぶ。生産が集中を追えば輸送距離と在庫が膨らむ。こうしたトレードオフを、調達・生産・物流の壁を越えて裁ける立場が要る。それがグローバルSCMを統括する役職の存在理由だ。

通関・運賃・地政学リスク・拠点 — 個別論点を統合する視点

グローバルSCMの現場は、通関、国際運賃、地政学リスク、拠点配置という個別論点の集合体に見える。しかし統括の観点では、これらは独立した課題ではなく、相互に絡み合う一つの設計問題である。

通関とコンプライアンス

輸出入には仕向国・原産国ごとの関税分類、原産地規則、輸出管理、各種許認可が伴う。HSコードの判定一つでコストもリードタイムも変わり、誤りは追徴やサプライチェーンの停止に直結する。経済安全保障の文脈で輸出管理が強化される局面では、通関は単なる事務処理ではなく経営リスクの管理領域になる。

国際運賃とモード選択

海上コンテナ運賃は需給と地政学(運河・海峡の通航状況など)で大きく変動し、航空運賃はさらに高水準で変動する。運賃の構造を読み、海上・航空・鉄道・陸送を組み合わせて総物流コストとリードタイムを最適化する力が問われる。国内の運賃・コスト構造の読み解きについては姉妹記事「物流コストの構造分析」(/topics/logistics-cost-structure)で整理しており、その思考をグローバルに拡張する形になる。

地政学リスクと供給元の多元化

近年、地政学リスクは調達戦略の中心的変数になった。JETROの調査では、調達活動が地政学リスクの影響をすでに受けているとする日本企業は2割超、今後の影響を懸念する企業は5割に上り、これに対応して『調達先の分散・多元化』に取り組む企業は6割超に達している(2024年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査、有効回答3,162社)。具体的な動きとしては、中国一極の調達をベトナムやインドへ部分的に移す『チャイナプラスワン』が定着し、2023〜24年には紅海・スエズの航行リスクで欧州向け海上輸送が喜望峰回りに切り替わって、リードタイムが2週間前後延びた局面もあった。同調査では、部材の海外調達で中国を最大調達先とする企業が約5割を占めるとも報告されており、依存の集中と多元化圧力が同時に存在する構図が浮かぶ。

6割超
調達先の分散・多元化に取り組むと回答した日本企業の割合(地政学リスクへの対応として)。
JETRO『2024年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査』(有効回答3,162社)

こうした再編は、調達先の切り替えだけでなく、生産拠点・在庫拠点の再配置を伴うことが多い。クロスボーダーでの事業・拠点の組み替えがM&Aや資本提携を介して進む場面では、統合実務の設計が問われる。この論点は姉妹記事「クロスボーダー物流M&A」(/topics/cross-border-logistics-ma)で深掘りしている。

拠点配置 — 全体最適の解として

通関・運賃・リスクの論点は、最終的に『どこに何の拠点を置くか』という拠点配置の問題に収束する。需要地近接で在庫を持つか、ハブ拠点に集約して輸送効率を取るか。リスク分散のために二重化するか。これらは一つの目的関数では決まらず、コスト・リードタイム・リスク耐性の重みづけを経営として定める意思決定になる。個別論点を別々に最適化するのではなく、拠点配置という統合解として束ねる——ここにグローバルSCM統括の核がある。

グローバルSCMを統括する役職 — CLO・CSCO・SCM本部長

グローバルSCMを束ねる役職には、いくつかの呼称が併存する。欧米企業ではChief Supply Chain Officer(CSCO)やChief Logistics Officer(CLO)が経営の中核として早くから定着し、日本企業ではSCM本部長・ロジスティクス本部長・物流統括役員といった名称が用いられてきた。海外と日本の呼称・制度の違いは姉妹記事「海外CLO制度との比較」(/topics/clo-global)に詳しい。

日本では、改正物流効率化法(令和8年4月施行)により、一定規模以上の荷主(特定荷主)に対し役員等の経営幹部から『物流統括管理者(CLO)』を選任することが義務づけられた。国交省提言は、このCLOのミッションを『経営戦略の視点から物流を統括管理し、物流全体の最適化を図ることで企業価値の向上と社会的課題の解決に貢献する』と定義している。グローバルに事業展開する企業では、このミッションが自ずと国境をまたぐ範囲に及ぶ。

国交省提言は、CLOに求められる知識・知見を7つの領域で整理しており、その第7に『グローバル』を挙げている。提言の原文はこう述べる。

⑦グローバル:海外での事業展開や海外との輸出入業務を行う企業にあっては、グローバルサプライチェーン戦略、グローバルネットワーク設計・構築、パートナー設定、海外拠点運営戦略に関する知識・知見が必要である。(国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』

つまり、グローバルSCMの統括は、CLOに法令・行政が公式に期待する知識領域の一つとして明文化されている。残る6領域は『①経営戦略としての物流(必須事項)/②パートナーシップ/③サステナビリティ/④組織・人材/⑤デジタル技術/⑥法務・法制度』であり、グローバルはこれらを土台に上乗せされる横断的能力と位置づけられる。役職ごとの責任範囲・報酬水準の整理は姉妹記事「CLOの役割と報酬」(/topics/clo-roles-compensation)も参照されたい。

組織設計 — 本社統括か、地域分権か

グローバルSCMを誰が・どの単位で統括するかは、組織設計の根本問題である。典型的には、本社が一元的に方針と数字を握る『本社集権(センター主導)』型と、地域統括会社や現地法人に権限を委ねる『地域分権(リージョン主導)』型の両極があり、多くの企業は両者の混合を採る。

  • 本社集権型──調達方針・在庫基準・拠点投資を本社が統括。全体最適と標準化を効かせやすいが、現地の市場変化への即応性が落ちやすい。
  • 地域分権型──地域統括(アジア・北米・欧州など)に権限委譲。現地適応とスピードに強いが、地域ごとの個社最適に陥り全体最適を損なうリスクがある。
  • ハイブリッド型──方針・標準・投資判断は本社、日々の運用は地域——と層で分ける現実的な折衷。本社CLO/CSCOと地域SCM責任者のレポートライン設計が要となる。

どの型が正解かは、製品特性・需要地分布・規制環境によって変わる。生鮮やファッションのように1日在庫を持てば陳腐化する事業は分権が向き、設計変更に半年かかる重工業のように集約効果が大きい事業は集権が向く。迷ったときの実務的な目安は『現地が間違えたとき、本社が何日で気づけるか』だ。察知が遅れる構造なら、権限を現地に渡しきらないほうがいい。いずれにせよ、本社が『方針・標準・データ』を握り、地域は『運用・適応』を担うという線引きを明確にすることが要になる。組織モデルの選択肢と設計論は姉妹記事「物流組織モデルの設計」(/topics/clo-org-models)で詳述している。

国交省提言も、CLOが『全社横断的にその役割を十分に発揮できる組織体制の整備』を強調しており、適任者を一人据えるだけでは不十分で、その人物を支えるチーム体制と権限設計が成否を分けると指摘している。グローバル組織では、この『支える体制』が複数国・複数法人に及ぶ分だけ設計の重みが増す。

海外拠点物流とローカル人材の活かし方

グローバルSCMの実行部隊は、最終的に各国の現地法人・現地物流チームである。本社がいかに精緻な方針を描いても、現地で動かすのはローカル人材だ。経済産業省『海外事業活動基本調査』によれば、日本企業の海外現地法人は2万4,058社(2023年度末)に上り、現地法人(全産業)の売上高は374.0兆円に達している。この巨大な現地オペレーションを束ねる人材戦略は、グローバルSCMの中核をなす。

27.2%
日本の製造業の海外生産比率(国内全法人ベース、2023年度実績)。海外で作る比率がこの水準に達し、グローバルSCMの統括が経営機能として不可欠になっている。
経済産業省『第54回 海外事業活動基本調査』(2024年7月調査、2023年度実績)

現地人材の活かし方には二つの論点がある。第一に、現地の市場・規制・商慣習に通じたローカル人材へ運用権限を委ね、現地適応のスピードを引き出すこと。第二に、本社の方針・標準・KPIを共有し、個社最適に流れないよう全体最適のガバナンスを効かせること。この『委譲』と『統制』のバランスが、海外拠点物流の質を決める。

JETROの『2025年度 海外進出日系企業実態調査』(全世界編、有効回答7,485社)では、人材の確保が悪化していると答えた企業が3割超に上り、賃上げや待遇改善で対応する企業が5割超を占めると報告されている。海外拠点の物流・SCM人材も例外ではなく、現地での人材確保・定着は本社のSCM戦略と切り離せない経営課題になっている。

需給予測や在庫の可視化を高度化し、現地の判断を本社のデータ基盤で支えるアプローチも有効だ。AI・データ活用による需給最適化や在庫の可視化を、グループ横断で導入・定着させる取り組みは、KI StrategyのAI導入支援サービス『AX Boost』が支援領域としている。在庫最適化の基礎は姉妹記事「在庫最適化ガイド」(/topics/inventory-optimization-guide)も参考になる。

経産省通商白書に見るサプライチェーン全体最適の潮流

個社の判断の集積は、国の通商政策にも映し出される。経済産業省『令和7年版通商白書(通商白書2025)』は、保護主義の台頭や特定国への過剰依存がもたらすリスクを背景に、サプライチェーンの強靱化を主要テーマに据えた。具体的には、特定国への輸入依存度が高い物資の供給元を多元化すること、同志国との政策協調を進めること、自社の優位性を活かした海外展開を後押しすることを重要な方向性として打ち出している。

この潮流は、企業のグローバルSCM戦略と表裏一体だ。供給元の多元化、地政学リスクへの備え、サプライチェーンの可視化と再編——通商白書が国レベルで論じる課題は、そのまま個社のSCM統括が日々向き合う課題に対応する。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の『ロジスティクスコンセプト2030』も、2030年に向けたサプライチェーンの再構築と標準化を提言しており、官民の方向性は『個社最適から全体最適へ』という一点で重なっている。

言い換えれば、グローバルSCMの全体最適は、もはや一企業のコスト削減策ではなく、経済安全保障と産業政策の文脈に置かれた経営テーマである。これを統括する人材には、自社の供給網を最適化する実務力に加え、通商環境の変化を読み、リスクを先回りして拠点・調達を組み替える戦略眼が求められる。

グローバルSCM人材をどう確保するか

ここまで見てきた論点——調達〜販売の全体最適、通関・運賃・地政学・拠点の統合、本社統括か地域分権かの組織設計、海外拠点とローカル人材のガバナンス——を一人の役職者に求めるのは、人材市場の現実からすれば容易ではない。グローバルSCMを統括できる人材は、国内物流の実務、国際物流・貿易の知見、複数国にまたがる組織マネジメント、そして経営戦略の素養を併せ持つ必要があり、層が薄い。

確保の現実的な選択肢は、概ね次の三つに整理できる。

  1. ① 社内育成──海外駐在・貿易実務・本社SCM企画を計画的に経験させ、グローバル統括人材へ育てる。時間はかかるが自社文脈への適合度は最も高い。
  2. ② 外部からの招聘──他社・他業界でグローバルSCMやCSCO/CLO相当の経験を積んだ人材を経営幹部として迎える。即戦力性が高く、再編や立て直しの局面で有効。
  3. ③ 業務委託・顧問の活用──正式選任の前段階として、グローバルSCMの設計・立て直しを業務委託や顧問契約で外部の知見に委ねる。組織が固まる前に方針を定めたい局面に向く。

どの道を選ぶにせよ、求める役割を職務記述として言語化し、自社のSCMの現在地(集権/分権、海外比率、リスク集中度)に照らして要件を定めることが出発点になる。物流・SCM幹部の採用市場の動向は姉妹記事「物流エグゼクティブ市場」(/topics/logistics-exec-market)で整理している。

KI Strategyが運営するCLO Careerは、物流・SCMリーダーのエグゼクティブサーチを専門としている。グローバルSCMを統括するCLO/CSCO・SCM本部長クラスの招聘や、海外拠点を含む物流組織の設計・人材戦略について、採用企業の経営層・人事の方からのご相談を守秘契約のもとで受け付けている。候補者の方は経歴の機密登録から、企業の方は採用相談からお問い合わせいただきたい。クロスボーダーでの事業・拠点再編を伴う局面では、M&A/PMIアドバイザリーの『DD-AX』、需給最適化・可視化のAI導入では『AX Boost』と、人材確保以外の論点もKI Strategyのエコシステムで一体的に支援できる。

References

  1. 経済産業省『第54回 海外事業活動基本調査 概要(2023年度実績、2024年7月1日調査)』 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/index.html
  2. 経済産業省『令和7年版通商白書(通商白書2025)』 https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2025/2025honbun/index.html
  3. 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』令和8年3月 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001992615.pdf
  4. 日本貿易振興機構(JETRO)『2024年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査』(2025年3月、有効回答3,162社) https://www.jetro.go.jp/news/releases/2025/4657b6a03c5698e1.html
  5. 日本貿易振興機構(JETRO)『2025年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)』(有効回答7,485社) https://www.jetro.go.jp/news/releases/2025/13aebb32e58e01ad.html
  6. 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)『ロジスティクスコンセプト2030』 https://www1.logistics.or.jp/data/concept/
  7. 関連姉妹記事「海外CLO制度との比較|米国・EU・シンガポール・中国と日本独自の制度」(/topics/clo-global)
  8. 関連姉妹記事「物流組織モデルの設計」(/topics/clo-org-models)
  9. 関連姉妹記事「CLOの役割と報酬」(/topics/clo-roles-compensation)
  10. 関連姉妹記事「クロスボーダー物流M&A」(/topics/cross-border-logistics-ma)