「物流危機」「2024年問題」という言葉は広く知られるようになった。だが、その根にあるトラックドライバー不足が、なぜ起きていて、荷主に何ができるのかは、意外なほど整理されていない。ドライバー不足は景気循環の問題ではなく、人口・賃金・労働環境が積み重なった構造の問題である。本稿は、ドライバー不足の構造要因を公的データで確かめたうえで、改正物流効率化法でCLO(物流統括管理者)を置いた荷主が、自社の側から打てる手を具体的に示す。法改正に至る政策の経緯は「物流2024年問題からCLO選任義務へ」(/topics/logistics-2024)に、2030年に向けた需給予測は「2030年問題」(/topics/logistics-2030)に譲り、本稿は構造と打ち手に焦点を絞る。

まず規模を押さえる——86万人、その先にある崖

トラック運送事業で働く運転者は、令和4年でおよそ86万人(出典:国土交通省『物流を取り巻く現状について』)。ここ数年は横ばいで推移しているが、団塊世代の退出が本格化する2027年以降に減少が加速すると見込まれている。自動車運転従事者数そのものは1995年から減少局面に入っており、これは一時的な不足ではない。

供給構造も脆い。トラック運送事業者は全国に約6万3,000社あり、その99%が中小企業、車両10両以下の零細事業者が約半数を占める(出典:全日本トラック協会『日本のトラック輸送産業 現状と課題2024』)。価格交渉力の弱い小規模事業者がひしめく構造が、後述する運賃の低位固定と表裏一体になっている。

人口構造——高齢化と若年層の薄さ

ドライバー不足の第一の要因は年齢構成である。トラック運転者の約7割が40歳以上で、29歳以下はおよそ1割にとどまる。全産業平均で若年層が16%前後を占めることと比べると、入口の細さが際立つ。中型・大型ドライバーの平均年齢は45〜49歳で、年々上昇している(出典:全日本トラック協会『現状と課題2024』、厚生労働省『賃金構造基本統計調査』)。

若者が入ってこない理由のひとつに、大型免許の取得コストがある。取得には数十万円と一定の期間を要し、2007年の制度改正以降は難度も上がった。入職の「最初の壁」が高いまま放置されてきたことが、世代交代を妨げている。女性比率の低さも見逃せない。物流業全体では女性が約2割を占める(出典:全日本トラック協会『現状と課題2024』)が、運転職に限ればその比率はさらに低く、活用されていない労働力が大きい。

賃金と労働時間——割に合わない構造

第二の要因は処遇である。道路貨物運送業の年間所得は459万円で全産業平均より約1割低い一方、年間労働時間は全産業平均より約2割長い(出典:厚生労働省『賃金構造基本統計調査』。全産業平均との比較は国土交通省・全日本トラック協会資料による)。「長く働いて、少なく稼ぐ」構造が、人材の流入を阻み、流出を促してきた。

2024年問題以降の賃上げも鈍い。年間所得の上昇率は1%に満たず、国が掲げる年6〜13%の賃上げ目標には遠い(出典:SOMPOインスティチュート・プラス『物流の2024年問題でトラック運転手の働き方改革は進んだか』2025年4月)。時間外労働が制限された分、残業代に依存していた収入が目減りし、基本給の引き上げがそれを相殺できていないためだ。背景には価格転嫁の弱さがある。トラック運送業は各種の取引調査で価格転嫁の状況が最下位水準にあり、希望する運賃を収受できた事業者はごく一部にとどまる。

ドライバーの時間外規制(960時間上限)——「走れる時間」が物理的に減った

2024年4月、自動車運転業務にも時間外労働の年960時間上限が適用された。あわせて改善基準告示も強化され、1日の拘束時間は原則13時間、年間の拘束時間にも上限が設けられた(出典:厚生労働省、改善基準告示2024年4月適用)。これにより、同じ人員で運べる距離・本数が物理的に縮んだ。

現場はまだ移行の途上にある。SOMPOインスティチュート・プラスの調査(2025年4月)では、規制を超える運転者を抱える事業者が2割超残り、規制順守のために運送を断った事業者も15%を超えた。対応をとらなければ輸送力は2024年度時点で14%程度不足するとの試算(国土交通省)もあり、これが2030年の34%不足という予測(詳細は/topics/logistics-2030)へ地続きでつながっている。

2.82
2024年12月の自動車運転職の有効求人倍率。全産業平均(1.2倍台)の倍以上で、「募集しても応募が来ない」状態が常態化している。
厚生労働省『一般職業紹介状況』

需要も増えている——小口・多頻度という圧力

供給が細る一方で、運ぶべき仕事は増えた。宅配便の取扱個数は2010年度の約32億個から2023年度には約50億個へと膨らんだ(出典:国土交通省『宅配便等取扱個数の調査』)。EC市場の拡大が主因である。同時に、貨物1件あたりの量は直近30年でおよそ3分の1に縮み(出典:国土交通省『全国貨物純流動調査』)、件数は増えるが一回の積載は薄くなる「小口・多頻度化」が進んだ。

その結果、営業用トラックの積載率は4割前後にとどまり、政府目標には届かない。再配達率も1割前後で高止まりしている(出典:国土交通省)。半分前後を空で走り、一度で届かない——この非効率が、限られたドライバーの稼働をさらに削っている。ドライバー不足は「人が足りない」だけでなく、「人の時間が無駄に使われている」問題でもある。

荷主の打ち手①——荷待ち・荷役という最大の元凶

ここから荷主の側に視点を移す。ドライバーの拘束時間を押し上げている最大の要因のひとつが、荷主の施設での荷待ちと荷役である。国土交通省の調査では、荷待ちのある運行の平均荷待ち時間は1時間34分、荷役を含めれば合計で3時間を超える。荷待ちのある運行は、ない運行より拘束時間が平均2時間ほど長い。

1時間34分
荷待ちのある運行で、ドライバーがただ「待つ」だけに費やす平均時間。荷主が最も直接手をつけられる、純然たるロスである。
国土交通省『トラック輸送状況の実態調査』

改正物流効率化法は、特定荷主に荷待ち・荷役時間の記録と削減を求め、1運行あたり2時間以内を目安に置く(出典:国土交通省『改正物流効率化法 理解促進ポータル』)。バース予約システム(トラック予約受付システム)の導入は、到着時刻を分散させ待機を減らす基本手段で、導入企業では待機超過に伴う費用が大きく減った例も報告されている。だが2024年度の調査では荷待ち・荷役の削減は全体としてほとんど進んでおらず、CLOがまず着手すべき領域はここにある。

荷主の打ち手②——上流の商慣行を変える

荷待ち削減が「現場」の対策だとすれば、より上流には「商慣行」の対策がある。短すぎるリードタイムでの発注や少量多頻度の納品は、急配と低積載を量産する。国交省・経産省・農水省のガイドライン(2023年6月)は、リードタイムに余裕を持たせ、発注・出荷を平準化することを荷主に求めた。月末・期末への出荷集中をならすだけでも、同じ車両数で運べる量は増える。

物理的な標準化も効く。2024年にパレット標準化の議論が進み、11型(1,100×1,100mm)を基準とする方向が定まった。パレット化と一貫パレチゼーションは、手積み・手卸しに伴う長時間荷役を構造的に減らす。一方で、標準パレット導入の初期投資は中小の取引先に重く、業界横断のプール化なしには「大企業だけが先行する」結果にもなりかねない。打ち手の全体像は「荷主の物流効率化メニュー」(/topics/logistics-efficiency-menu)で整理している。

ただし、すべてを荷主の責任に帰すのは正確でない。帝国データバンクの調査では、対策をとっていない荷主の最多の理由が「問題が生じていない」だった。これは裏を返せば、運送事業者が断れずに無理を吸収してきた結果でもある。問題が見えていないだけで、輸送力の硬直や運賃の上昇として遅れて表面化する。

荷主の打ち手③——運賃の適正化とサプライチェーン再設計

最後は運賃である。2024年3月、標準的運賃が約8%引き上げられ(出典:国土交通省『新たなトラックの標準的運賃を告示』2024年3月)、荷役への対価も独立して加算できるようになった。標準的運賃に強制力はないが、これを下回る値付けを続ける限り、ドライバーの処遇改善の原資は生まれない。適正な運賃の収受は、コストではなく、輸送力を将来にわたって確保するための投資である。

輸送モードの見直しも有効だ。鉄道はトラックに比べCO2排出原単位が小さく、長距離・大ロットの定型輸送ではモーダルシフトが運転時間とCO2を同時に削る。異業種間の共同輸配送も、戻り便の活用などで台数と排出を減らす。これらは環境対応であると同時に、ドライバー依存を下げる供給戦略でもある。

野村総合研究所は、対策が進まなければ2030年度にドライバーが約36%不足し、輸送費は34%上昇、荷主企業の営業利益を大きく押し下げると試算する。ドライバー不足は「運送会社の問題」ではなく、荷主の損益とサプライチェーンの存続に直結する経営課題である。CLOの役割は、この現実を経営の言葉に翻訳し、現場・上流・取引条件の三層に同時に手を入れることにある。

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References

  1. 全日本トラック協会『日本のトラック輸送産業 現状と課題2024』 https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2024.pdf
  2. 厚生労働省『一般職業紹介状況』(職業別有効求人倍率)
  3. 厚生労働省『自動車運転業務の時間外労働の上限規制』 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
  4. 国土交通省『トラック輸送状況の実態調査結果』
  5. 国土交通省『新たなトラックの標準的運賃を告示しました』(2024年3月) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000294.html
  6. 国土交通省・経済産業省・農林水産省『物流の適正化・生産性向上に向けたガイドライン』(2023年6月)
  7. 野村総合研究所『2024年以降も深刻化する物流危機』 https://www.nri.com/jp/knowledge/report/2024forum375.html
  8. SOMPOインスティチュート・プラス『物流の2024年問題でトラック運転手の働き方改革は進んだか』(2025年4月)
  9. 内閣府『令和5年度 年次経済財政報告』(物流業の人手不足)
  10. 国土交通省『改正物流効率化法 理解促進ポータル』 https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
  11. 関連姉妹記事「物流2024年問題からCLO選任義務へ」(/topics/logistics-2024)
  12. 関連姉妹記事「2030年問題と荷主の対応ロードマップ」(/topics/logistics-2030)
  13. 関連姉妹記事「荷主の物流効率化メニュー」(/topics/logistics-efficiency-menu)
  14. 関連姉妹記事「改正物流効率化法とCLO選任義務 完全ガイド」(/topics/cloact)