タンクローリーには「混載」も「帰り荷」もない。化学・素材の物流は、危険物規制と専用車両、温度管理、大ロット長距離という制約が重なり、一般的なトラック効率化の定石がそのままでは効かない。だからこの業界のCLOが向き合う問いは、自社をどう効率化するかではなく、競合とどう手を組むかに傾く。実際、三菱ケミカル・三井化学・東ソー・東レが事務局を担う化学業界の共同物流には約80社・団体が集い、トラック共同配送の実証ではCO2を約28%削減し、積載率を69%から89%へ引き上げた(出典:日経ビジネス/日本経済新聞)。本稿は、この業界連携の現実を軸に、化学・素材業界の物流統括の論点を掘り下げる。

化学・素材業界の物流特性

この業界の物流が一線を画して難しいのは、次の特性が一度に重なるからだ。

  • ①危険物・劇物の規制対応──消防法・毒物及び劇物取締法・道路法による積載制限。
  • ②専用車両への依存──タンクローリー・コンテナ・パウダー車などの専用機材。汎用トラックへの転用が効かない。
  • ③温度管理──化学反応・凝固防止のための温度帯維持。
  • ④大ロット長距離輸送──石油化学プラントから消費地までの100km〜500km級の長距離輸送が中心。
  • ⑤工場直結のサプライチェーン──BtoBが主流で、JIT納入要件が厳しい。

業界課題マップ

ローリー物流の難しさは、化学に限った話ではない。食用油大手J-オイルミルズの事例(経産省『CLO取組事例集』p.16-17)でも、植物油のローリー物流は「業界内で車両を共用して運用される面があり、個社単独の取組だけでは解決が難しい構造的な課題」と整理されている。他産業の事例ではあるが、タンクを介して液体・粉体を運ぶという共通点ゆえに、この構造は化学・素材の物流にもほぼそのまま当てはまる。

主要な課題は4つに集約できる。

  • ①ローリー物流の効率化困難性──事例集の記述では、「ローリー物流の特性上、一般的なトラックの効率化策である『混載』や『帰り荷の確保』等の概念がなく、共同配送も実務上ハードルが高い」とされる。
  • ②担い手確保の難しさ──事例集によれば、「ローリー物流は専門性が高く参入事業者が限られるうえ、小規模事業者が多い。車両の特殊性から積み込み・積み下ろしもドライバー依存となりやすく、担い手確保が一層難しい」と整理される。
  • ③デジタル化の遅れ──業界特有の専用システムが多く、汎用WMS・TMSへの統合が進みにくい。毒劇物を会社をまたいで運ぶにはデータの標準化が前提となるが、その整備が追いついていない。
  • ④個社では完結しない構造──①〜③が重なる結果、効率化を一社の努力で進めるには限界がある。化学大手が会社の枠を越えて共同物流に動いた背景も、突き詰めればここにある。

改正物流効率化法対応の重点論点

改正物流効率化法への対応で、特定荷主となる化学メーカーが重点を置くべき論点は三つに整理できる。

  1. ①積載効率の向上──業界全体での共同利用、車両稼働率の可視化、帰り荷の確保(他産業との連携も視野)。
  2. ②荷待ち時間の短縮──プラント・物流拠点での予約システム導入、専用設備による積み下ろし時間の短縮。
  3. ③荷役等時間の短縮──自動化機器の導入、ドライバー作業の負担軽減(手作業からの脱却)。

これらは個社で完結しない領域が多く、業界団体や行政との協議が不可欠となる。

経産省事例集J-オイルミルズの取り組み

以下、経産省『CLO取組事例集』 p.16-17 に公表された情報の要約である。CLO Careerが同社と直接の関与を持つことを示すものではない。

同事例集の記述によれば、J-オイルミルズは「物流課題を解決し、物流持続性を向上するためには、行政、業界団体、競合企業、業界他社、サプライヤー、顧客(納品先)、物流会社、社内他部門など、社内外の関係者との『対話』による土台作りが必要不可欠」との認識のもと、業界団体や農林水産省等と継続的に協議している。

新任CLOへのメッセージとして「自社の物流の実態把握と実務理解から始めましょう」「物流ネットワークの実態把握は、一朝一夕には進みません。物流会社と情報を共有し、用語や前提条件を確認し、目線を合わせながら進めることが、改善を進める土台となります」と整理されている。

業界連携・行政協議の戦略

化学・素材業界のCLOの主戦場は、自社の倉庫よりも業界の会議室にあると言ってよい。先の共同物流の枠組みでは、三菱ケミカルと三井化学が2023年に二社間の共同物流の検討を始め、2025年には東ソーを加えた3社で化学品の鉄道共同輸送の実証にまで進んだ(出典:日本経済新聞/各社リリース)。毒劇物を含む化学品を会社をまたいで運ぶには、輸送データの標準化と、競争法上どこまで連携してよいかの線引きが要る。CLOに問われるのは、この厄介な合意形成を前に進められるかだ。打ち手は、おおむね次の三方向に整理できる。

  • 業界団体への積極的参画──石油化学工業協会、日本化学工業協会、関連業界団体での物流分科会への参加。
  • 所管省庁との継続的協議──農水省(食用油)、経産省・国交省(化学物質)、厚労省(毒劇物)など、業界に応じた所管省庁との対話。
  • 競合他社との社会的課題への共同取り組み──競争法上の論点を整理した上での、業界全体での効率化推進。

CLOに求められる業界知識

この業界のCLOには、国土交通省提言 p.12-13 が挙げる知識・知見の7領域に加えて、業界固有の素養が要る。代表的なものを挙げる。

  • 化学物質規制──消防法、毒劇法、PRTR法、化審法など。
  • 海外輸出規制──化学兵器禁止条約(CWC)、輸出貿易管理令。
  • MSDS・SDS の運用──化学物質安全データシートの管理体制。
  • プラント・タンクヤード運営知見──貯蔵設備・配管・搬入搬出設備の基礎理解。

化学・素材業界のCLO人材市場

化学・素材業界のCLO候補者の供給源は、大きく三つに分けられる。(a) 業界内の物流・SCM部門長クラスからの内部登用、(b) 化学プラントのエンジニアリングや調達からの転身、(c) 自動車・食品など他業界の物流役員の招聘である。規制と現場知識の専門性が高い業界だけに、外部からの招聘はハードルが高く、実務上は(a)の内部登用が起点になりやすい。ただし内部人材が物流統括の経験に乏しい場合は、(b)や(c)を補完的に組み合わせる設計が現実的になる。

業務委託CLO・顧問契約の活用は、特に中堅化学メーカーで有効である。専門領域の知見を持つ業界経験者を業務委託形態で確保し、内部育成と並行させるパターンが現実的選択肢となる。

CLO Careerの化学・素材業界支援

CLO Career は、化学・素材業界の物流統括人材ネットワークを保有しており、以下のパターンで支援している。

  • 業界経験者の招聘・業務委託CLO派遣──化学・素材業界の物流役員経験者を、正社員役員または業務委託で派遣。
  • 業界横断のCLO候補者探索──食品・自動車業界のCLO経験者で、化学業界への転身意欲を持つ候補者の探索。
  • プラント・物流知見の橋渡し──プラントエンジニアリング出身者の物流統括キャリアへの転身支援。

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References

  1. 経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』令和8年2月(特にp.16-17 J-オイルミルズ事例) https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
  2. 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』令和8年3月 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001992615.pdf
  3. 消防法・毒物及び劇物取締法・化審法(化学物質関連法令)
  4. 石油化学工業協会・日本化学工業協会 物流分科会 公開資料
  5. 関連姉妹記事「特定荷主の判定と中長期計画書の実務」(/topics/clo-compliance)
  6. 関連姉妹記事「共同物流の組み方」(/topics/joint-logistics)