自動車産業は、ジャスト・イン・タイム(JIT)という低在庫・多頻度納入の仕組みを磨き上げ、それを競争力の源泉にしてきた。ところが2024年問題は、まさにこのJIT――トラックの便を増やし、一便あたりの積載を薄くする運び方――に最も重い負荷をかける。自動車業界のCLOが向き合う本質は、電動化でもグローバル化でもなく、自社を強くしてきた仕組みのどこを、どこまで緩めるかという判断にある。本稿は、経産省『CLO取組事例集』のSUBARU事例と国交省提言の日野自動車事例を手がかりに、その判断の中身を読み解く。

自動車業界の物流特性

自動車の物流が難しいのは、いくつもの特性が同時に効くからだ。中核はJIT(ジャスト・イン・タイム)で、部品メーカーからの納入時刻が分単位で管理され、一便の遅れが完成車工場のライン停止に直結する。そのJITを支えるのが、Tier 1からTier 2・Tier 3へと広がる重層的なサプライチェーンであり、完成車・部品の国際輸送を前提とするグローバル展開だ。さらに、完成車や大型部品にはキャリアカーや特殊コンテナといった専用車両が要り、輸送中の振動・温度・湿度や傷を防ぐ厳格な品質管理も欠かせない。低在庫・多頻度を分単位で回すこの精緻さこそが自動車の競争力の源泉だが、後で見るように、まさにそれが改正法対応では最大の弱点に変わる。

業界課題マップ

その精緻なJIT網に、いま複数の圧力が同時にかかっている。電動化(EV)への移行は、電池・モーター・電子部品という新しい調達ロジスティクスと、重い電池を運ぶ輸送インフラを要求する。半導体・電子部品は、コロナ禍と地政学リスクでサプライチェーン断絶が現実化し、調達の多元化と在庫戦略の見直しを迫る。改正物流効率化法も外せない――トヨタ・ホンダ・日産などの完成車メーカーは年間取扱量が指定基準の9万トンを大きく超え、ほぼ確実に特定荷主に該当するため、CLO選任とKPI管理は避けられない。加えて、RORO船・海上コンテナのコスト変動や港湾混雑といった海外輸出物流の重さと、キャリアカードライバーの国内不足が重なる。どれもが、薄く速く回すJITの前提を揺さぶる方向に働く。

SUBARU — 物流本部新設+CLO先行設置

経済産業省『CLO取組事例集』 p.17-20 に公表された SUBARU の事例の要点を以下に紹介する。以下は同事例集の記述に基づく要約・引用であり、CLO Careerが同社と直接の関与を持つことを示すものではない。

企業概要

事例集 p.18 によれば、SUBARU は1953年設立の大手自動車メーカー。売上高約4兆6,858億円、完成車の販売台数の約9割は海外向け、製造は国内が約6割、海外が約4割を占める。完成車製造拠点は国内(群馬県太田市の2拠点)と米国インディアナ州。

CLO設置の経緯

事例集の記述では、SUBARU では従来「物流領域の課題解決に向け継続的に取組んできた一方で、経営企画や製造寄りの部署に物流部署が置かれるなど、物流機能が組織上分散していた時期があった」とされる。電動化など自動車の変革期を契機として、2025年4月に物流本部を新設、同時にCLOを設置した。

組織体制

事例集 p.18 によれば、物流本部の下に「物流企画管理部、生産部品物流部(生産側)、完成車物流部(国内外・陸船)」の3部体制を構築。物流機能子会社スバルロジスティクスとの連携も継続。物流本部が「直接管轄する機能は、国内・海外向けの完成車物流(工場出荷後〜港湾/販売会社まで)と、生産部品物流(部品メーカーから工場まで、国内・海外生産向けの部品輸送)」とされる。

CLO新任のメッセージ

事例集 p.21 に紹介される新任CLOのメッセージは「素人目線で見た新しい気付きを大事にする」である。物流の現場経験がない立場からCLOに就任したからこそ、固定観念に縛られない新しい目線が活きるという趣旨である。

日野自動車 — CxO制とグループ物流会社社長兼任

国土交通省提言『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』 p.21 に公表された日野自動車の事例の要点を以下に紹介する。

提言の記述では、日野自動車は2024年2月にCLOを設置している。CLOは「グループの物流部門を担う日野グローバルロジスティクスの代表取締役社長も兼務」する構造である。提言 p.21 によれば、「兼務することで、現場の困りごとが直接届き、経営メンバーへ迅速に共有できる。また、現場を知っているからこそ、その重要性も理解できる」とされる。

具体的な取り組みとして、提言は「当日オーダーの締め時間を17時⇒16時に短縮した」例を紹介する。「締め時間の設定は窓口の販売会社との調整が必要だが、CLOとして『トラックを待たせない』方針を示し、合意形成を図れた(物流会社社長の立場だけでは難しい対応)」と整理されている。CLOという経営幹部の立場から、社内外の合意形成を主導した代表的な事例である。

また、ドライバーの荷待ち・荷役作業時間を負担なく可視化するため、車載のHino Connectと他社車両向けのMOVO Fleetを活用し、工場の計測エリア(ジオフェンス)で入退場・荷役時間を自動計測する仕組みも紹介されている。

自動車業界における改正物流効率化法対応の特殊性

自動車業界では、完成車製造業の多くが特定荷主に該当する。年度取扱貨物量が9万トンの指定基準(出典:物資の流通の効率化に関する法律 第45条/同法施行令)を大きく超える企業が一般的で、改正物流効率化法対応は必須である。

最大の難所は、JITをどこまで守るかだ。積載効率を上げるには納入をまとめて便を減らすのが近道だが、それはJITが積み上げてきた低在庫・ライン同期と正面からぶつかる。在庫を厚くすれば運びは楽になり、薄く保てば運びが苦しくなる――そのどこで線を引くかを、製造・調達・販売を巻き込んで決めるのがCLOの仕事になる。JITの線引きと並んで、次の論点も中長期計画書の策定に影響する。

  • Tier 2/3部品メーカーへの波及──自社(Tier 1完成車メーカー)のCLO取り組みが、サプライヤー全体に波及。サプライヤーへの説明・支援の責任。
  • 海外輸出物流──国内法令対応に加え、海運・港湾の混雑・地政学リスクの管理。完成車輸送のRORO船確保。
  • 電動化に伴う調達ネットワーク再編──電池サプライヤー・モーター製造拠点の地理的再配置と物流網の同時設計。

部品メーカー・系列子会社との関係

この業界の特異さは、系列構造の強さにも表れる。Tier 1 の完成車メーカーと部品メーカー(Tier 2/3)の関係は密接で、CLOがこの関係をどう扱うかが、改正物流効率化法対応の実効性を大きく左右する。

  • サプライヤーへのKPI共有──完成車メーカーのKPIを部品メーカーにも共有し、サプライチェーン全体での改善を促進。
  • 共同物流の主導──Tier 1主導で、Tier 2/3を含む共同輸配送を組成。系列を超えた異業種共同物流も視野。
  • 情報システムの連携──EDI・APIを通じた発注情報・在庫情報の共有。サプライヤーの計画立案を支援。
  • 下請法・取適法対応──サプライヤーへの優越的地位の濫用にならない範囲での改善要請。

グローバル物流とローカルCLO

完成車メーカーは、その成り立ちからしてグローバル産業だ。SUBARU の事例集 p.18 が「完成車の販売台数の約9割は海外向け」と述べるように、国際物流の比重が極めて高い。

グローバル展開する自動車メーカーのCLOは、(a) 日本本社のCLO、(b) 各国子会社のローカル物流責任者、(c) 海外サプライヤーとの調整窓口、の三層構造を統括する。姉妹記事「海外CLO制度との比較」(/topics/clo-global)で整理した海外CLO/CSCOとの連携設計が、自動車業界では特に重要となる。

EV化時代の物流再設計

電動化は、CLOが今後10年で向き合う論点を物流の根もとから書き換える。リチウムイオン電池は重量物かつ危険物で、輸送には専用車両と特殊規制への対応が要る。コバルトやリチウムといった希少金属は産出国が偏在し、地政学リスクと代替材料の調達ネットワーク構築が課題になる。湿度・静電気の管理を要する精密電子部品の輸送インフラ、使用済み電池を回収・再利用するリバースロジスティクス(サーキュラーエコノミー対応)、そして電動トラック普及をにらんだ充電拠点の配置と自社EV車両の運用設計――いずれも、これまで近接立地と系列で固めてきたJITの調達網そのものを揺さぶる。エンジン部品の近場調達を前提に最適化してきた網が、電池・希少金属という遠くて重い対象に作り替えられていく。

自動車業界のCLO人材市場

自動車業界でCLO候補となる人材の供給源は、おおむね次の三つに整理できる。

  • ①社内ジョブローテーション経由──生産管理・調達・生産技術・経営企画を経験した経営幹部が、物流統括として CLO に就任。SUBARU の事例(事例集 p.22「これまでのキャリアにおける生産管理の担当、広報、経営企画部門などの在籍経験」)が該当。
  • ②物流子会社経由──日野自動車のように、グループ物流子会社の社長を経験した人物がCLO に就任。
  • ③他業界・物流事業者からの招聘──他社製造業の物流役員、3PL事業者出身者をキャリア採用。事例集 p.22 のSUBARU は「他社製造業での物流専門家、物流事業者でのオペレーション経験者などをキャリア採用で補充」とされる。

自動車業界では系列・組織文化の制約があるため、外部完全招聘は他業界より少ない傾向。一方で、業務委託CLO・顧問契約による外部知見の取り込みは増加している。

CLO Careerの自動車業界支援

CLO Career は、自動車業界の物流統括人材ネットワークを持ち、招聘から外部知見の手配まで支援している。完成車・部品メーカーの物流役員経験者の招聘や、電機・機械・化学から自動車業界への転身支援、正社員役員登用前の業務委託CLO派遣に加え、この業界で特に効くのが、海外駐在・グローバルSCM経験を持つ人材や、電池調達・希少金属サプライチェーンに知見を持つEV化対応の専門人材だ。

経歴のコンフィデンシャルな登録、企業のご相談はいずれも守秘契約のもとで受け付けている。姉妹記事「CLO取組事例 完全解読」(/topics/clocases)、「海外CLO制度との比較」(/topics/clo-global)、「物流M&AにおけるCLOの役割」(/topics/clo-ma)も併読されたい。

References

  1. 経済産業省『CLO取組事例集 — 物流改革の実践と成果』令和8年2月(特にSUBARU p.17-20) https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/CLO_collection_of_cases.pdf
  2. 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』令和8年3月(特に日野自動車事例 p.21) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001992615.pdf
  3. 物資の流通の効率化に関する法律(令和8年4月施行版)
  4. 中小受託取引適正化法(取適法)
  5. 関連姉妹記事「CLO取組事例 完全解読」(/topics/clocases)
  6. 関連姉妹記事「海外CLO制度との比較」(/topics/clo-global)
  7. 関連姉妹記事「物流M&AにおけるCLOの役割」(/topics/clo-ma)