サプライチェーンのコストと労力は、消費者の玄関先に近づくほど密度を増す。幹線輸送がスケールでコストを薄められるのに対し、ラストワンマイル——配送拠点から最終的な受取場所までの最終区間——は、一件あたりの配送先がばらけ、不在による再配達が積み重なり、ドライバーの労働時間を直接削っていく。EC(電子商取引)の拡大とドライバー不足が同時進行するなか、ここは物流ネットワークで最も改善余地が大きく、同時に最も投資判断が難しい領域になっている。本稿は、国土交通省の再配達率サンプル調査をはじめとする公的データを基点に、再配達の社会的損失、置き配の標準化、宅配ボックス・ルート最適化・ドローン配送のそれぞれの効きどころと限界を整理し、EC荷主・小売の経営層が『最終配送への投資配分』をどう決め、誰が握るべきかを論じる。
なぜラストワンマイルが物流の最難関なのか
ラストワンマイルが難しいのは、構造そのものに理由がある。幹線輸送(拠点間の大ロット輸送)は、一台のトラックに大量の貨物を積み、長距離を運ぶことで一個あたりのコストを薄められる。これに対し最終区間は、一件ごとに受取先が異なり、住所も時間帯もばらばらで、しかも『不在なら持ち戻り、後で再び届ける』という再配達が常につきまとう。スケールが効きにくく、人の手と時間がそのままコストに跳ね返る。
この区間に圧力をかけているのが、EC市場の継続的な拡大だ。経済産業省の『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』によれば、2024年の日本国内のBtoC-EC市場規模は26兆1,000億円(前年比5.1%増)、うち物販系分野は15兆2,194億円で、物販分野のEC化率は9.8%に達した。小口・多頻度の宅配需要が増え続ける一方、これを運ぶドライバーは構造的に不足している。需要は最終区間に集中し、供給は細っていく——この非対称が、ラストワンマイルを物流の最難関にしている。
ドライバー不足そのものの構造——人口動態・賃金・時間外労働規制——については、姉妹記事 /topics/driver-shortage で詳述している。本稿はその供給制約を所与として、需要側(荷主・小売)が最終配送をどう設計し直すかに焦点を当てる。
再配達率と社会的損失を公的データで押さえる
ラストワンマイルの非効率を最も端的に表すのが再配達率だ。国土交通省は毎年4月と10月の年2回、大手宅配事業者を対象に宅配便の再配達率サンプル調査を実施・公表している。直近の調査では、令和7年(2025年)10月の再配達率は約8.3%だった。
再配達率は近年、着実に下がってきた。同じ国交省調査でたどると、令和5年4月は約11.4%、令和6年4月は約10.4%、令和7年4月は約8.4%、そして令和7年10月が約8.3%である。地域差も明確で、令和7年10月時点では都市部9.5%に対して地方は6.7%と、人口密度が高く不在率の上がりやすい都市部ほど再配達が起きやすい。なお政府は、総合物流施策大綱において再配達率を2020年度の10%程度から2025年度に7.5%程度へ削減する目標を掲げている。直近値はこの水準に接近しつつあるが、まだ達していない。
再配達が消す労働力とCO2
再配達は単なる手間ではなく、定量化できる社会的損失だ。国土交通省は、再配達のために費やされる労働力は年間約6万人のドライバーに相当し、再配達のトラックから排出されるCO2は年間およそ25.4万トン(令和2年度の国交省試算)にのぼると説明している。ドライバー不足が深刻な局面で、再配達は『増やせない労働力』を二重に消費している。
再配達が起きる理由として、国交省の調査では『配達されることを知らなかった』が約2割を占めるとされる。裏を返せば、受取側に確実に通知が届き、受け取り方法に選択肢があれば、相当部分は初回で完結しうる。ここに置き配・宅配ボックス・通知ツールといった打ち手の余地がある。
置き配の標準化はどこまで進むのか
再配達を最も直接的に減らすのが置き配だ。不在でも玄関前・宅配ボックス・宅配ロッカーなどに届けて配達を完了させれば、持ち戻りと再訪問そのものが消える。国土交通省も、コンビニ受取・駅の宅配ロッカー・置き配など『多様な受取方法』の普及を再配達削減の柱に据えている。
制度面の動きも進んでいる。国土交通省は2025年6月、『ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会』を立ち上げ、置き配などを宅配の標準的なサービスとしてどう位置づけるかの議論を始めた。ここで注意したいのは、報道で先行した『置き配を標準化』という表現の中身だ。検討会の議論は、対面受取を置き配のみに置き換えるものではなく、対面受取に加えて置き配・宅配ボックス・ロッカー受取などを『受取時の選択肢の一つ』として標準約款にどう組み込むかという枠組みである。施行は2026年度以降になる見通しとされる。
置き配の標準化の検討は、対面の受け取りに代えて置き配のみを限定して標準約款に位置付けるものではなく、対面の受け取りに加えて、置き配などの多様な受取方法を受取りの際の選択肢の一つとしてどう位置付けるか——という議論である。(国土交通省『ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会』の趣旨に関する報道等を基に整理)
集合住宅への目配りも始まっている。国土交通省は2024年6月にマンション標準管理規約を改正し、宅配ボックス設置に関する決議要件を明確化するとともに、置き配に関する使用細則を定める際のポイントを示した。マンションは在宅率や宅配インフラのばらつきが大きく、置き配の普及には管理組合の合意形成という固有のハードルがある。制度の整備はこの摩擦を下げる方向に働く。
コスト構造の観点では、置き配は『初回完結率を上げて再訪問コストを消す』施策であり、限界費用がほぼゼロに近い改善だ。荷主側にとっては、配送料の交渉力に直結する。再配達が減れば事業者の積載効率と稼働効率が上がり、それは中長期的に運賃の前提条件を変えていく。物流コストを構造で捉える視点は /topics/logistics-cost-structure で掘り下げている。
宅配ボックスとルート最適化——効果と限界の見極め
置き配を物理インフラで支えるのが宅配ボックスだ。効果は古くから実証されている。パナソニックが福井県あわら市の戸建106世帯に宅配ボックスを設置して行った実証実験(2016年12月〜2017年3月)では、再配達率が49%から8%へ低下したと報告された(企業による実証データ)。受取インフラが整えば不在配達の大半は初回で完結しうることを示す象徴的な事例である。
ただし宅配ボックスには限界もある。設置・維持にコストがかかり、戸建・集合住宅・地域で普及度が大きく異なる。容量を超える大型荷物や生鮮品、本人確認が要る荷物には使えない。インフラ投資である以上、どこに置けば最も再配達を消せるか——都市部の高層集合住宅か、不在率の高い共働き世帯エリアか——という配分判断が問われる。『一律に設置』ではなく『再配達が集中する地点に集中投資』が費用対効果の鍵になる。
ルート最適化が効く前提条件
もう一つの定番がルート最適化(配送順序・経路をアルゴリズムで組み直し、走行距離と所要時間を削る)だ。配送AIや動的ルーティングは、配送先が多く・密度が高く・時間帯指定が複雑なほど効果が大きい。逆に、配送先がまばらな地方や、一件あたりの距離が長いエリアでは、最適化の余地そのものが小さくなる。ツールの巧拙以前に、自社の配送が『最適化が効く密度』にあるかどうかの見極めが先に立つ。
- 効きやすい──都市部・高密度配送、多頻度小口、時間帯指定が多くピーク偏在が激しいエリア。共同配送・積み合わせで密度をさらに上げられる場合。
- 効きにくい──配送先がまばらな地方・中山間地、一件あたりの距離が長いエリア。ここはルート最適化より受取方法の集約(ロッカー・拠点受取)の方が効く。
ルート最適化や配送AIの導入は、ツール選定だけで完結しない。配送データの整備、配送員のオペレーションへの落とし込み、他社貨物との積み合わせ設計までを一体で見直す必要がある。こうしたAI・データ活用の実装をどう進めるかは、KI Strategy のAI導入支援『AX Boost』の支援領域でもある。配送の効率化メニュー全体は /topics/logistics-efficiency-menu も参照されたい。
ドローン配送はどこで効き、どこで効かないのか
ラストワンマイルの自動化として注目を集めるのがドローン配送だ。制度面では、2022年12月5日に施行された改正航空法により、有人地帯(第三者がいる上空)での補助者なし目視外飛行——いわゆるレベル4飛行——が解禁された。レベル4を行うには、機体登録に加え、第一種機体認証を受けた機体と、国家資格である一等無人航空機操縦士、所定の運航ルールへの対応が必要となる。国土交通省は『ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン』(2023年3月にVer4.0)を整備し、安全要件を示している。
ただし制度が整ったことと、商用として広く回ることは別だ。現状のドローン配送は、積載量(ペイロード)と飛行距離に制約があり、天候の影響も受けやすい。運用には資格者・機体認証・空域管理が必要で、一件あたりのコストは現時点ではトラック配送に対して必ずしも優位ではない。社会実装は、まず過疎地・離島・中山間地など、陸路の配送コストが高く・代替手段が乏しい地域で先行している段階にある。
つまりドローンは『都市部の宅配を一気に置き換える技術』ではなく、当面は『陸路が割高な地域の補完』として効く。EC荷主・小売が投資配分を考える際は、ドローンを汎用解として過大評価せず、自社の配送網のどこに陸路の高コスト区間があるか——そこに限って効く打ち手として位置づけるのが現実的だ。
最終配送は内製すべきか、外製すべきか
ここまでの打ち手をどう組むかは、そもそも最終配送を自社で持つか(内製)、宅配事業者・配送パートナーに委ねるか(外製)という設計判断の上に乗る。多くのEC荷主・小売は外製を基本としつつ、特定エリアや特定商材で内製・自社配送を組み合わせている。
- ① 配送密度と物量──自社単独で都市部に十分な配送密度を作れるか。密度が足りなければ外製の方がコスト効率は高い。共同配送で密度を補える余地があるかも併せて見る。
- ② 顧客体験の重要度──配送品質・時間指定・梱包・返品対応が事業の差別化に直結するなら、内製・準内製で握る価値が出る。汎用品なら外製で十分なことが多い。
- ③ コストと交渉力──再配達削減・置き配普及で外製運賃の前提を改善できるなら、まず外製を最適化する。運賃適正化の制度的背景は標準的運賃の議論と連動する。
- ④ 規制・リスク対応──配送員の労務管理・安全・コンプライアンスをどこまで自社で負うか。内製は管理責任も内製化することを意味する。
重要なのは、内製・外製を二者択一で固定しないことだ。再配達が集中する都市部は内製・置き配インフラで握り、密度の薄い地域は外製やロッカー集約に寄せる——という『区間ごとの使い分け』が、現実的な最適解になりやすい。共同配送による密度の作り方は /topics/sustain や物流効率化メニューの議論とも接続する。
ラストワンマイル投資配分を誰がどう握るか
ここまで見てきた打ち手——置き配・宅配ボックス・ルート最適化・ドローン・内外製の使い分け——は、いずれも単独では部分最適にとどまる。再配達削減と顧客体験とコストは、しばしばトレードオフの関係にあり、どこにいくら配分するかは全社の意思決定にならざるを得ない。これは現場の配送課の判断を超え、経営の投資配分の問題である。
ここで物流統括管理者(CLO)の役割が立ち上がる。2026年4月に全面施行される改正物流効率化法は、年間取扱貨物量が一定規模以上の特定荷主(国土交通省試算で約3,200社)にCLOの選任と中長期計画の作成を義務づけた。CLOは本来、調達から最終配送までのサプライチェーン全体に責任と権限を持つ経営幹部であり、ラストワンマイルへの投資配分こそ、その権限が最も意味を持つ領域の一つだ。
- 再配達率をKPIに据える──国交省のサンプル調査を社内のベンチマークとして使い、自社の再配達率・初回完結率を可視化する。改善は運賃・労働力・CO2の三方に効く。
- 投資を地点・区間で配分する──宅配ボックスは再配達が集中する地点に、ルート最適化は密度の高いエリアに、ドローンは陸路が割高な区間に——『一律』ではなく『集中』で配分する。
- 外製運賃の前提を握る──置き配・通知ツールで初回完結率を上げ、配送パートナーとの運賃交渉の前提を改善する。コスト削減と取引適正化を両立させる。
- 顧客体験と整合させる──配送品質はEC・小売の事業価値に直結する。CLOがマーケ・CS部門と横断で握り、配送設計を事業戦略に接続する。
言い換えれば、ラストワンマイルは『コスト削減プロジェクト』ではなく『投資配分の経営判断』である。誰がこの判断を握るかで、同じ投資額でも結果は大きく変わる。CLOの役割と職責の全体像は /topics/clo-retail(小売・EC荷主の視点)でも具体的に論じている。
EC荷主・小売の経営課題として再構成する
最後に、ラストワンマイルをEC荷主・小売の経営課題として捉え直したい。最終配送は、物流部門のコストセンターであると同時に、顧客が事業に触れる最後の接点でもある。届かない・遅れる・再配達になるという体験は、商品の評価そのものを下げる。逆に、置き配や柔軟な受取で『確実に・一度で』届く体験は、リピートと顧客満足に直結する。最終配送の設計は、物流の問題であると同時にブランドの問題だ。
そして再配達の社会的損失——年間約6万人のドライバー相当の労働力、約25.4万トンのCO2——を踏まえれば、最終配送の効率化は環境・サステナビリティの観点でも経営アジェンダになる。配送の脱炭素と効率化をどう両立させるかは /topics/sustain で扱っている。ラストワンマイルは、コスト・顧客体験・環境・労働力の四つが交差する、まさに経営の結節点である。
この結節点を握れる人材は限られている。サプライチェーン全体を見渡し、配送への投資配分を経営の言葉で語り、外部パートナーと運賃を交渉でき、AI・データ活用の打ち手まで束ねられる——そうした物流役員・CLO人材は構造的に不足している。KI Strategy のエグゼクティブサーチは、こうしたラストワンマイルを含むサプライチェーンの投資配分を握れるCLO・物流幹部の採用相談と、候補者の登録を受け付けている。最終配送を経営課題として再設計する局面で、人材面から伴走したい。
なお、M&Aや事業統合に伴って配送網を再編する場面では、物流デューデリジェンスとPMI(統合後の最適化)の視点が欠かせない。配送網の重複・補完を見極める統合支援は、KI Strategy のM&A・PMIアドバイザリー『DD-AX』の領域でもある。最終配送の効率化は、単体の改善だけでなく、事業再編の機会としても捉える価値がある。
References
- 国土交通省「物流:宅配便の再配達率サンプル調査について」 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/re_delivery_research.html
- 国土交通省 報道発表資料「令和7年10月の宅配便の再配達率は約8.3%」(2025年12月26日) https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000956.html
- 国土交通省「物流:宅配便の再配達削減に向けて」(社会的損失・CO2試算) https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/re_delivery_reduce.html
- 経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日) https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html
- 国土交通省「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン Ver4.0」(2023年3月)/改正航空法(レベル4飛行、2022年12月施行) https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001601194.pdf
- 国土交通省「物流効率化法」理解促進ポータルサイト(2026年4月全面施行・CLO選任義務) https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/
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