改正物流効率化法による CLO 選任義務化、物流2024年問題、物流業界の慢性的な人材不足——これらの構造的変化は、物流人材確保を「現場任せ」から「CHRO(最高人事責任者)の経営アジェンダ」へと押し上げた。日経新聞の報道では、CHRO など人材分野の最高責任者を置く主要企業が4割を超えたとされる。だが物流人材の問題は、採用を頑張れば解けるものではない。階層は深く、現場は高齢化し、賃金は全産業平均を下回る——この構造のなかでは、人を採る前に、要る人数そのものと、人が辞めない設計を作り直すのが CHRO の本当の仕事になる。本稿はその順序で論じる。

なぜ物流人材確保が CHRO アジェンダか

従来、物流人材の確保は事業部門(物流部・SCM 部)に閉じる問題と見なされてきた。CHRO が直接関与するのは執行役員以上の役員人事に限られ、物流部長以下の採用は人事部門と事業部門の協働で進められていた。

この構造が2026年を境に変わる。第一に、改正物流効率化法による CLO 選任義務化で、物流人材の最上位層が「経営幹部マター」になった。CHRO がオーナーシップを取らざるを得ない領域である。第二に、物流2024年問題によるドライバー・倉庫スタッフ不足が、サプライチェーン全体の安定性を脅かすレベルに達した。これは人事部門の業務範疇を超えた経営課題である。

日経の調査では、CHRO など人材分野の最高責任者を置く主要企業が4割を超え、「経営戦略と人材戦略を紐づける必要性」が業界横断で意識されているという。物流人材の確保は、CHRO 単独では完結しない。CEO・CFO・COO・CLO(または CSCO)と一体で組み立てて初めて、経営の打ち手になる。

物流業界の人材構造の特殊性

CHRO が物流人材確保戦略を設計する際、まず理解すべき業界固有の構造がある。

  1. ①垂直階層の長さ──経営幹部(CLO/SCM 本部長)— 物流部長 — 物流マネージャー — 物流現場(ドライバー・倉庫オペレーター)と、垂直階層が他業界より深い。各階層で人材確保のアプローチを変える必要がある。
  2. ②現場経験の重み──経営幹部クラスでも、物流現場の理解が成否を分ける。机上のスキルだけでは現場が動かない。逆に、現場一筋のキャリアでは経営視点が育ちにくい。両者をブリッジする人材は希少。
  3. ③外部リソースの依存度──3PL(サードパーティロジスティクス)、物流子会社、業界横断のドライバー・倉庫スタッフ供給に依存する構造。社内人材だけで完結しない人材戦略が必要。
  4. ④賃金水準の特殊性──厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』によれば、運輸業・郵便業の所定内給与額(一般労働者・男女計)は約30.5万円と、全産業平均(約33.0万円)を下回る。一方、CLO/SCM 本部長クラスは経営幹部水準に達し、業界内の格差が大きい。

CHRO が把握すべき改正法のインパクト

改正物流効率化法が CHRO の業務範囲に与えるインパクトは、4つの側面で具体化する。

  • CLO 選任義務(特定荷主 約3,200社)──違反時は100万円以下の罰金リスク(出典:国土交通省「物流効率化法」理解促進ポータル)。「役員等の経営幹部から選任」必須。役員人事として CHRO 直轄のテーマ。
  • 中長期計画の策定──国土交通省が「事業所内連携」「事業所外連携」を業務として明示。CLO だけでは実装できず、人事制度(業績連動報酬・KPI 設計)の支援が必要。
  • ドライバー労働時間規制(物流2024年問題)──労働時間年間960時間制限(出典:厚生労働省『自動車運転の業務の時間外労働の上限規制』2024年4月適用)。労務制度・契約形態の見直しが直接的な人事マター。
  • デジタル化推進──WMS/TMS/AI 導入により、物流マネージャー以下の業務内容が大きく変わる。リスキリング・育成プログラムの構築が必要。

国交省提言は「物流統括管理者は事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位」と明示しており、CHRO は CLO の役職位置付け(取締役・執行役員クラス)を支える人事制度を整える責任を負う。

階層別の確保戦略

物流人材を階層別に分け、それぞれの確保戦略を設計する。

①CLO / SCM 本部長(経営幹部層)

国交省の「役員等の経営幹部」要件を満たす候補者は内部・外部とも希少。内部昇進候補(執行役員以上)の有無を早期に把握し、無い場合は外部招聘(エグゼクティブサーチ)を準備する。詳細は『物流特化エグゼクティブサーチの選び方』(/topics/executive-search-logistics)を参照。

②物流部長 / 物流マネージャー(ミドル層)

CLO 直下の実務責任者。改正法対応・物流DX・拠点新設のプロジェクト責任者として需要が高まる。同業界からの転職組、コンサル出身者、外資系 SCM 経験者などからの採用を組み合わせる。詳細は『物流部長・マネージャー採用ガイド』(/topics/logistics-manager-hire)を参照。

③物流現場層(ドライバー・倉庫スタッフ)

物流2024年問題で、ここは採用だけでは埋まらない。順序が要る。まず辞めない設計(労働時間・休憩・賃金の見直し)で母数の流出を止め、次に自動化と3PL活用で必要人数そのものを減らし、それでも足りない分を採用で埋める——この順で手を打たないと、採っては辞められるの消耗戦になる。

内製化 vs 業務委託の判断軸

内製化か業務委託かは、階層を降りるにつれて答えが変わる。最上位のCLO/SCM本部長は、改正法が「役員等の経営幹部から選任」を求める以上、選任義務を満たすには直雇用が前提になる――社外CLO・業務委託CLO単独では要件を満たしにくい(『CLO 直雇用 vs 社外CLO vs コンサル』/topics/clo-vs-alternatives)。物流部長・マネージャーも原則は直雇用で、組織への定着と現場との信頼構築のためだが、DX推進プロジェクトマネージャーのような単位での業務委託は補完的に使える。そして現場層に下りると、自社雇用に3PL・派遣・業務委託を組み合わせるのが現実解だ。3PL比率は業界平均で増加傾向にあるものの、在庫管理や需要予測といったコア機能は内製にとどめておきたい。要するに、法令が縛る最上位ほど直雇用が固く、下の階層ほどミックス活用の自由度が増す。

報酬・処遇制度の設計

国交省提言 p.17 は「CLO は他の部門統括責任者(CxO)と同等の責任を担う役職であるという前提をもとに、事業者内の地位及び待遇に差が生じないようにすべき」と明記している。CHRO はこの原則に沿って、物流役職層の報酬制度を再設計する必要がある。

この原則は、階層ごとに具体策へ翻訳される。CLOクラスの報酬はCFO・COOら他CxOと同等に置き、基本報酬+業績連動+株式報酬という標準的な構造を取る(詳細レンジは『役職と年収完全ガイド』/topics/clo-roles-compensation)。物流部長クラスには、CLOへの昇格パスが見える設計を用意し、プロジェクト責任者手当や成果連動報酬を組み込む。そして現場層は、物流2024年問題で労働時間が制限されるなか、時給単価・夜間手当・繁忙期手当の見直しがそのまま採用力に直結する。報酬もまた、最上位のCxO同等原則から現場の手当設計まで、ひとつながりで考える必要がある。

リテンション戦略

採用と同じくらい重要なのが、確保した人材の定着である。物流業界では各階層で離職リスクが異なる。

  • CLO クラス──業界他社からの引き抜きリスクが高い。在任期間中の成果機会(プロジェクト権限・予算)を保証することが定着の鍵。
  • 物流部長 / マネージャー──コンサル・他業界からの転身組は、現場との信頼を築けるかが定着の分水嶺になる。当社がサーチの現場で見る限り、効くのは最初の100日の設計だ。目安として、はじめの30日は拠点に同行して意思決定はさせず現場の言葉を覚える期間、次の30日で一拠点の小さな改善を任せて成功体験を作り、残りで横展開に入る。いきなり全社改革を振ると、たいてい現場の不信を買って空回りする。
  • 物流現場層──労働環境(労働時間、休憩時間、福利厚生)が直接的な定着要因。働き方改革の徹底が必須。

採用ブランディング

物流業界は他業界に比べ採用ブランディングの整備が遅れているが、改正法対応はそれを立て直す絶好の機会でもある。鍵は三つだ。「なぜ自社の物流が経営にとって重要か」を経営トップが言語化して社外に発信すること、現場→マネージャー→部長→CLOというキャリアパスを社内外に明示して「物流でも経営層を目指せる」と示すこと、そしてその発信を一過性で終わらせないこと。好例が経産省事例集のSUBARUで、物流未経験で就いたCLOの「素人目線を大事にする」という肉声まで外に出している。役職の新設やCLOの生の言葉を発信すること自体が、『この会社は物流で経営を動かそうとしている』という、候補者に最も効くメッセージになる。

KPI 設計

物流人材確保戦略を CHRO アジェンダとして運用するには、定量的な KPI が不可欠である。代表的な指標は5つの軸に分類できる。

  • 戦略 KPI──CLO/物流役員ポジションの充足率、後継者プールの厚み(次世代 CLO 候補数)。
  • 採用 KPI──物流役員クラスの採用リードタイム、年間採用数、内部昇進と外部招聘の比率。
  • リテンション KPI──CLO/部長層の在任期間平均、3年定着率、離職時の理由分析。
  • 処遇 KPI──業界水準との報酬比較、CxO 間の報酬格差(CLO とその他 CxO の比率)。
  • ブランディング KPI──採用応募数、応募者の志望動機分析、サイト訪問数。

これらを月次・四半期で経営会議に報告することで、物流人材確保戦略を経営マターとして可視化できる。

References

  1. 国土交通省『改正物流効率化法ポータル』https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
  2. 国土交通省『物流統括管理者(CLO)に期待される姿』(2024年)
  3. 経済産業省『CLO取組事例集』(2024年)
  4. 日経新聞『「人材戦略」で最高責任者4割超 主要企業、経営と迅速に連動』
  5. 厚生労働省『賃金構造基本統計調査』
  6. JILS(日本ロジスティクスシステム協会)『物流2024年問題と物流革新』
  7. 関連姉妹記事「物流役員クラスの転職市場2026」(/topics/logistics-exec-market)
  8. 関連姉妹記事「物流特化エグゼクティブサーチの選び方」(/topics/executive-search-logistics)
  9. 関連姉妹記事「物流部長・マネージャー採用ガイド」(/topics/logistics-manager-hire)
  10. 関連姉妹記事「CLO 直雇用 vs 社外CLO vs コンサル」(/topics/clo-vs-alternatives)